モシモニア
家族に合わせた備え

妊娠中・産後まもない時期の防災|母子健康手帳と体調に配慮した備え方

シュン家族・ペット防災担当
・ 約10分で読めます
妊娠中・産後まもない時期の防災|母子健康手帳と体調に配慮した備え方

防災の情報の多くは、健康な大人を前提に作られています。ですが妊娠中は、お腹が大きくなることで転びやすくなったり、長時間立っていることが難しくなったりします。産後まもない時期(産褥期)は、出産で消耗した体を回復させる期間で、無理な動きや重い荷物は本来避けたい時期です。この記事では、東京都福祉局や内閣府の資料をもとに、妊産婦ならではの視点から防災の備えを整理します。すでに乳幼児のいる家庭の備え(ミルクやおむつなど)は別記事に譲り、ここでは「妊娠中」と「産後まもない時期」の母体そのものに焦点を当てます。

妊産婦は「要配慮者」として位置づけられている

災害対策基本法は、高齢者や障害者、乳幼児などとともに、特に配慮を要する人を「要配慮者」と位置づけています。東京都福祉局の「妊産婦・乳幼児を守る災害対策ガイドライン」では、妊産婦について、必要な情報を自分で把握すること自体はできても、お腹が大きく身動きが取りにくいことや、分娩後に体が回復しきっていないことから、避難行動や避難生活で配慮が必要になる場合があるとしています。

これは「妊産婦だから特別扱いしてほしい」という話ではありません。標準的な備えに、身体の状態に応じたひと工夫を足しておくと、いざというときに選べる行動の幅が広がる、という考え方です。妊娠週数や産後の経過は人によって差が大きいため、以下は目安として読み、体調に不安があるときはかかりつけの産科医・助産師に相談してください。

東京都福祉局「妊産婦・乳幼児を守る災害対策ガイドライン」の考え方を参照しています。

母子健康手帳・お薬手帳・診察券を持ち出し品に入れる理由

母子健康手帳は、妊娠経過や健診結果、血液型、アレルギーの有無などが記録された、母子にとっての「カルテ」です。こども家庭庁も、妊娠の届出とともに交付される母子の健康記録として位置づけています。避難先で普段と違う病院を受診することになっても、母子健康手帳があれば、これまでの経過を一から説明しなくても医療者に伝わります。

内閣府の検討会資料「あかちゃんとママを守る防災ノート」でも、母子健康手帳・健康保険証は常に携帯し、特に大切なページはスマートフォンで撮影してクラウドに残しておくことが勧められています。手帳そのものを持ち出せない事態に備え、写しが手元にもう一つある状態を作っておくと安心です。お薬手帳や診察券も同様に、避難先での受診をスムーズにする役割を持ちます。

貴重品袋に入れておきたい書類

  • 母子健康手帳(表紙・血液型・アレルギー・直近の健診結果のページは特に)
  • お薬手帳(服用中の薬がある場合)
  • 健康保険証・乳幼児医療証
  • 産院の診察券・分娩予約票
  • 母子健康手帳の主要ページをスマホで撮影したもの(クラウドや家族間の共有アプリにも保存)

ヒント

2026年4月からは母子健康手帳の電子版も制度上の手帳として使えるようになりましたが、紙の手帳も引き続き使えます。どちらの形式でも、記録の控えを紙以外の場所にもう一つ持っておくという発想は変わりません。

かかりつけ産院との連絡手段と、分娩予定日が近いときの考え方

被災すると、携帯電話が輻輳してつながりにくくなることがあります。かかりつけの産科医や助産師との連絡方法は、災害用伝言ダイヤル(171)や各社の災害用伝言板などの手段もあわせて、平時のうちに確認しておきましょう。母子健康手帳に産院の連絡先を書き込んでおくと、自分で連絡できない状況でも周囲の人が代わりに連絡しやすくなります。

  1. 1

    産院までの経路と、避難先候補を重ねて確認する

    自宅から産院までの経路に加えて、自宅周辺のハザードマップも確認しておきます。分娩予定日が近づいたら、経路が使えなくなった場合の代替手段も考えておくと安心です。
  2. 2

    出産準備品は早めにひとまとめにする

    内閣府の資料では、妊娠後期は出産に必要な入院用品をまとめておき、避難後の出産も想定して乳児用品も準備しておくことが勧められています。慌てて探す事態を避けられます。
  3. 3

    マタニティマークを持ち歩く

    避難行動中や避難所で、周囲に妊娠中であることが伝わりやすくなります。列に並ぶ場面や配布物を受け取る場面で、無理をせず配慮を求めやすくなります。

里帰り出産中や、妊婦健診の通院中に被災した場合は、その場にいる医療機関や自治体の指示に従うのが基本です。かかりつけ産院が被災地の外にある場合でも、母子健康手帳があれば、避難先の医療機関でも経過が伝わりやすくなります。

臨月に入ってから、実家への里帰りと自宅、どちらで被災しても困らないように、両方の地域のハザードマップと避難先を確認しました。母子健康手帳はいつも同じポーチに入れて、外出のたびに持ち歩くようにしています。
妊娠後期の方

妊娠中の体調に配慮した備蓄・持ち出し品

内閣府の資料では、女性1人で無理なく運べる荷物の重さの目安を10kg、妊婦さんについては5kg程度としています。持ち出し袋を作るときは、この目安を意識して、詰め込みすぎないことが大切です。重い荷物は家族で分担するか、必要度の低いものは自宅や車に分散して備えます。

体調面では、次のような点に注意が必要とされています。

  • 転倒: お腹が大きくなるとバランスが変化し、足元が見えにくくなります。避難時はできるだけ誰かと一緒に、段差の少ない経路を選びます。
  • 血栓症(エコノミークラス症候群): 妊娠中は血栓症のリスクが平時より高まるとされています。こまめに水分をとり、足を動かす、足を上げて休むといった工夫が予防につながります。
  • 妊娠高血圧症候群: ストレスや環境の変化で血圧が上がりやすくなるとされます。塩分を控えめにし、静かで横になれる場所を確保することが望ましいとされています。
  • 冷え: 体を冷やさないよう、羽織るものや靴下を多めに備えます。

持ち出し品としては、締め付けの少ないマタニティウェアや大きめの下着、腹部を締め付けない服装、それに加えて塩分控えめの非常食(スープ類は汁を残す、味付けの濃い惣菜は控えるなど)を選べるようにしておくと安心です。

妊娠中の体調変化への注意点は、内閣府「あかちゃんとママを守る防災ノート」および日本子ども家庭総合研究所「乳幼児と保護者、妊産婦のための防災ハンドブック」の記載を参照しています。個別の症状の有無は自己判断せず、かかりつけの産科医に確認してください。

産後まもない時期(産褥期)に配慮した備え

出産直後の体は、妊娠・出産による負担から回復していく過程にあります。日本子ども家庭総合研究所の資料では、産褥期には悪露(おろ)が続く、腰痛や疲労感が出やすい、乳腺炎など乳房のトラブルや尿漏れが起こることもあるとされ、十分な休養が必要な時期だと説明されています。気分の落ち込みが出ることもあるとされているため、無理をせず、頼れる人や相談窓口とのつながりを持っておくことも備えの一つです。

産後まもない時期に備えたいもの

  • 産褥パッド・使い慣れたナプキン(悪露への対応)
  • 締め付けない下着・産後用ショーツの替え
  • 母乳パッド(母乳が漏れ出ることへの備え)
  • からだを拭くシート・清浄綿(入浴が難しい時期の衛生保持)
  • 座ったまま休める場所や、抱っこ紐など両手が空く育児用品

避難所では、横になれる場所やプライバシーの確保が難しいこともあります。周囲に産後であることを伝え、休める場所の確保を相談することも、遠慮せずに検討してよい選択肢です。授乳や着替えの際の目隠しになる大判のストールやポンチョも、荷物を増やさずに役立ちます。

あわせて読みたい

女性の視点で見直す防災の備え|プライバシー・衛生・防犯と持ち出し品

母乳育児・ミルク育児での備え方の違い

内閣府の資料では、母乳は災害時にも最適な栄養源とされ、一時的に量が減っても授乳を続けることが勧められています。ただし、ショックや環境の変化で食欲が落ちると母乳の分泌にも影響するとされるため、支援が受けられる場面では、母親自身の食事量と水分をしっかり確保することが大切です。

ミルク育児の場合は、育児用ミルクと調乳用の水、哺乳瓶(または使い捨てのものや紙コップ)をセットで備えておく必要があります。哺乳瓶の消毒ができない状況では、紙コップやスプーンで少しずつ飲ませる方法も知られています。ミルクや離乳食など、乳幼児側の具体的な備蓄量やサイズの見直し方は、以下の記事でまとめています。

あわせて読みたい

子どもがいる家庭の防災|乳幼児の備えリストと、月齢で変わる見直しのコツ

よくある質問

妊娠中はどのタイミングで避難を判断すればよいですか
お腹が大きくなるほど避難に時間がかかりやすくなります。警戒レベル3(高齢者等避難)が出た段階など、周囲より少し早めに動き始める計画にしておくと、慌てずに行動できます。実際の避難のタイミングは、自治体からの情報とかかりつけ医の指示を優先してください。
分娩予定日が近いときに被災した場合はどうすればよいですか
おなかの張りや出血、破水などの兆候があれば、自分で受診できない場合は避難所の責任者や周囲の人に受診の手配を依頼するよう、公的資料でも案内されています。マタニティマークを身につけ、母子健康手帳を携帯していると、周囲にも状況が伝わりやすくなります。
里帰り出産中に被災したら、かかりつけ産院とどちらを頼ればよいですか
基本的には、その場にいる地域の医療機関や自治体の指示に従います。母子健康手帳を携帯していれば、初めて受診する医療機関でも妊娠経過が伝わりやすくなります。里帰り先・自宅どちらでも通用するよう、両方の連絡先を控えておくと安心です。
妊娠中・産後の防災グッズは市販の持ち出し袋に何を足せばよいですか
標準的な非常持ち出し袋に、母子健康手帳・お薬手帳の写し、締め付けない衣類、産褥パッドや母乳パッドなどの衛生用品を足すのが基本です。重さの目安は妊婦さんでおよそ5kgとされているため、詰め込みすぎず、必要度の高いものから優先してください。

まとめ|標準の備えに「今の体の状態」を足す

妊娠中・産後まもない時期の防災は、特別な備えを一からそろえることではなく、標準的な備えに、今の体の状態に合わせたひと工夫を足すことが基本です。母子健康手帳とお薬手帳を携帯し、産院との連絡手段を確認し、体調に応じた持ち出し品を選ぶ。この3つを押さえておけば、いざというときの選択肢が確実に広がります。体調に不安があるときは、記事の内容にかかわらず、かかりつけの産科医・助産師にまず相談してください。

あわせて読みたい

非常用持ち出し袋の中身チェックリスト|最初の一晩をしのぐための必需品と選び方

出典・参考

この記事をシェア

関連する記事

家族に合わせた備え

女性の視点で見直す防災の備え|プライバシー・衛生・防犯と持ち出し品

避難生活では、着替えやトイレ、生理用品といった配慮が後回しになりがちです。内閣府男女共同参画局のガイドラインをもとに、プライバシーと衛生、防犯、女性の持ち出し品、生理用品の備蓄の回し方を、家族の誰にとっても必要な配慮として穏やかに整理しました。