災害時、学校・保育園の子どもをどう引き取る|引き渡しルールの確認と共働き家庭の備え

平日の昼間に大きな地震が起きたとき、子どもは学校や園にいて、親は職場にいます。そのとき頭に浮かぶのは「迎えに行かなければ」という気持ちですが、実際には学校や園の側にも、災害時に子どもをどう保護し、誰にどう引き渡すかというルールがあらかじめ決められています。この記事では、そのルールがどんな考え方でできているのかを公的な手引きから確認し、家庭の側で先に確認・準備しておきたいことを整理します。
「引き渡し」とは|学校・園が決めている災害時のルール
引き渡しとは、災害などで子どもだけで下校させるのが危険なときに、保護者または事前に登録した引き取り者が学校・園に出向いて子どもを受け取ることをいいます。多くの学校や園で「引き取り」「緊急時引き渡し」などと呼ばれています。
これは各施設が独自に思いついた運用ではありません。学校については、学校保健安全法第29条で、危険等発生時において職員がとるべき措置の内容と手順を定めた対処要領(危機管理マニュアル)を作成することが定められており、文部科学省の手引きでは、そのマニュアルに盛り込む項目のひとつとして「引き渡しと待機」が扱われています。保育所については、保育所保育指針に「災害の発生時に、保護者等への連絡及び子どもの引渡しを円滑に行うため、日頃から保護者との密接な連携に努め、連絡体制や引渡し方法等について確認をしておくこと」と示されています。
文部科学省「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」(平成24年3月)および「学校の危機管理マニュアル作成の手引」(平成30年2月)、保育所保育指針(平成29年厚生労働省告示第117号。現在はこども家庭庁が所管)と「保育所保育指針解説」(平成30年2月・厚生労働省)による。
ここで大切なのは、引き渡しのルールは「迎えに来てもらう手順」だけではないという点です。文部科学省の手引きでは、地震の規模や被災状況によって、子どもを下校させるか、学校に待機させて保護者に引き渡すかを判断する必要があるとされ、判断の目安の例として次のような整理が示されています。
| 状況(例) | 対応(例) |
|---|---|
| 学校を含む地域の震度が震度5弱以上 | 保護者が引き取りに来るまで学校で待機させる。時間がかかっても、来るまでは学校で保護する |
| 震度4以下 | 原則として下校させる。交通機関の混乱で保護者の帰宅困難が予想される場合、事前に届けのある子どもは学校で待機させ、引き取りを待つ |
注意
また、災害の種類によっては「引き渡さない」判断もありえます。文部科学省の手引きでは、津波など限られた時間での対応が迫られる場合には、保護者にも災害情報を提供したうえで、子どもを引き渡さずに保護者とともに学校に留まることや避難行動を促すといった対応も必要だとされています。迎えに行くこと自体が最善とは限らない、という前提を家族で共有しておくと、当日の判断がぶれにくくなります。
入学・入園のときに確認しておく項目
引き渡しのルールは、入学・入園時の説明会や年度当初のお便りで案内されることが多いものです。「もらった記憶はあるけれど、どこにしまったか分からない」という状態が一番危ないので、次の項目が答えられるかを確認してみてください。
学校・園の引き渡しルールで確認したいこと
- どんな条件で引き渡しになるか(震度の基準、警報の種類、その日の判断者)
- 引き渡し場所はどこか(教室・体育館・園庭など)と、車や自転車で行ってよいか
- 引き渡しカードや引き取り証は必要か。持参できないときはどう扱われるか
- 登録できる引き取り者は何人までか。祖父母や近所の人も登録できるか
- 学校・園から保護者への連絡手段は何か(メール配信、電話、ホームページ、掲示など)
- 保護者から学校・園へ安否や到着見込みを伝える手段はあるか
- 迎えに行けない場合、子どもは学校・園でどこまで待機できるのか(宿泊の可否を含む)
- きょうだいが別の学校・園にいる場合、どちらを先に回るか(それぞれの引き渡し場所と時間)
- 登下校中・園外保育中に被災した場合の集合場所と引き渡し方法
保育所保育指針の解説では、災害時に子どもを安全に引き渡すには保育所の努力だけでは足りず保護者の協力が不可欠であり、入所時の説明や毎年度当初の確認、保護者会での周知など、さまざまな場面を通じて保護者の理解を得ておくことが必要だと述べられています。裏を返せば、家庭の側が確認しないままだと、ルールは機能しにくいということです。
「保育所保育指針解説」(平成30年2月・厚生労働省。こども家庭庁のサイトで公開)第3章「健康及び安全」における災害への備えの記述による。
引き取り者の登録と「代理人」の決め方
引き渡しの現場では、大勢の保護者が一度に集まり、混乱しやすくなります。そのため多くの学校・園が、事前に登録した引き取り者かどうかを確認したうえで手渡す運用をとっています。文部科学省の手引きでは、保護者が持参した引き渡しカードと学校保管のカードを照合し、保護者または代理人であることを確認する流れが小学校の例として示されています。幼稚園向けの留意点としては、保護者が引き取りに来られない場合の代理者を登録し、それ以外には引き渡さないことを保護者と確認しておくことが挙げられています。
文部科学省「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」の引き渡し手順および幼稚園における留意点の記述による。
保育所保育指針の解説でも、保護者が迎えに来ることが困難な場合の保護者以外への引渡しのルールについて、氏名や連絡先、本人確認のための方法などをあらかじめ決めておくことが求められる、とされています。つまり「その場で電話して頼む」は想定されていない、と考えたほうが安全です。
では、代理人は誰に頼めばよいのでしょうか。ここは各家庭の事情によりますが、選ぶときの基準は共通しています。
- 平日の日中に動ける人であること(勤務先が遠い人は当日動けない可能性が高い)
- 徒歩や自転車で学校・園まで行ける距離に住んでいること
- 子ども本人が顔と名前を知っていること
- 引き受けたあと、子どもを預かる場所(自宅など)を確保できること
候補になりやすいのは、近くに住む祖父母、同じ学区の親しい家庭、地域のファミリーサポート事業の提供会員などです。誰にも心当たりがない場合は、無理に代理人を立てるより、「迎えに行けないので学校で待機させてほしい」と学校・園に届け出るほうが現実的なこともあります。
ヒント
きょうだいが別の学校・園に通っている場合は、回る順番も先に決めておきます。文部科学省の危機管理マニュアルの手引きでは、幼稚園における事前の備えとして、保護者の勤務場所やきょうだいの有無および在籍校、緊急時の連絡先を事前に確認し、迎えが遅くなる幼児を把握しておくことが挙げられています。園の側もそこまで見ているので、家庭からも正確に伝えておくと役に立ちます。
連絡が取れない前提で取り決めておく
引き渡しの仕組みが崩れる最大の原因は、通信です。文部科学省の手引きは、東日本大震災を踏まえた課題として、通信網および交通網が遮断された状況で保護者と連絡がとれず、子どもの安全な下校や引き渡しが困難になった例があったことを挙げています。メール配信システムがあっても、停電や回線の混雑で届かないことがあるという前提で考えておく必要があります。
文部科学省「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」における東日本大震災を踏まえた課題の整理による。
保育所保育指針の解説でも、災害時は電話等がつながらないことを想定してあらかじめ複数の連絡手段を決めて保護者に知らせておくこと、保護者自身の安否を保育所に伝えてもらえる仕組みをあらかじめ整えて周知することが大切だとされています。家庭の側では、次の順で準備しておくと迷いません。
- 1
学校・園からの連絡手段を全部書き出す
一斉メール、アプリの通知、ホームページ、電話連絡網、災害用伝言ダイヤル、校門の掲示など、案内されているものをすべて確認します。受信できる設定になっているか(迷惑メール判定になっていないか)も、この機会に確かめておきます。 - 2
連絡が来なかったときの行動を決める
「1時間経っても連絡がなければ、決めた順番で迎えに向かう」「まず学校のホームページを見る」など、待つ時間の上限と次の行動を先に決めておきます。決めておかないと、繰り返し電話をかけて回線を混ませてしまいがちです。 - 3
家族間の安否確認手段を決める
災害用伝言ダイヤル171や災害用伝言板、メッセージアプリなど複数を用意し、「無事なら伝言を残す」を家族の基本ルールにします。迎えに行く人が決まったことも、この手段で共有します。 - 4
紙に書いて持ち歩く
学校・園の電話番号、引き渡し場所、代理人の連絡先を紙のメモにして、家族全員の財布やカバンに入れておきます。スマートフォンが使えない状況でも情報が残ります。
家族の安否確認の具体的な手順や、災害用伝言ダイヤル171の使い方は、こちらの記事で詳しくまとめています。
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家族の安否確認、決めていますか|災害用伝言ダイヤル171と連絡手段の備え
共働き・遠距離勤務なら「誰が行くか」と「行けないとき」を先に決める
共働きで、しかも職場が遠い家庭にとって、引き渡しはいちばん難しい問題です。大規模な地震では鉄道が止まり、保護者自身が帰宅困難者になります。
内閣府(防災担当)が令和8年1月に改定したガイドラインでは、救命・救助活動などの応急活動に支障をきたさないよう、原則72時間(3日間)は安全な場所に待機し、応急活動が落ち着くと考えられる発災後おおむね4日目以降を目途に順次帰宅することが想定されています。一方で同じガイドラインは、小さなこどものお迎えや家族の介護等のやむを得ない事情により、帰宅困難者等が自らの判断で移動を開始することも考え得るとしたうえで、その趣旨(自らの安全確保と応急活動の迅速・円滑な実施)を十分理解した上で、自己の判断に責任をもって行動すべきである、としています。
内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月)による。
同ガイドラインには、家庭で先に決めておくべきこととして、平時より家族等との間で、帰宅しないという選択や安否確認の方法、お迎えや介護等の対応方法等について取決めをしておく、と明記されています。さらに、こどものお迎え等やむを得ない事情で早期に帰宅すると判断した場合は、対応者を家庭内で1名にするなどして移動者数の増加抑制に努める、という考え方も示されています。夫婦そろって職場を出るのではなく、迎えに行くのは1人と決めておく、ということです。
- 1
迎えに行く人の優先順位を決める
職場からの距離、勤務先の役割、体力などを踏まえ、第1候補・第2候補・代理人という順番を作ります。「近いほうが行く」ではなく、名前で決めておくのがポイントです。 - 2
行かないほうの役割も決める
もう一方は職場や安全な場所にとどまり、安否確認と情報収集を担当します。両方が同時に動き出すことを避けます。 - 3
行けないと判断する条件を決める
「鉄道が止まり、徒歩で3時間以上かかる」「経路に大きな被害がある」など、迎えに行かない条件をあらかじめ言葉にしておきます。 - 4
学校・園に事前に届け出る
迎えが遅くなる、または当日は行けない可能性が高いことを、年度当初に学校・園へ伝えておきます。
この最後の届け出は、公的な手引きでも想定されている行動です。文部科学省の手引きには、家庭の状況により保護者等の帰宅が困難になるような家庭の子どもについては、学校に留めるなどの事前の協議・確認が必要である、と書かれています。手引きに載っている引き渡しカードの例にも「震度4以下でも、交通機関に影響が出た場合は児童を学校に待機させますか」という確認欄が設けられています。「迎えに行けないかもしれない」と伝えることは、わがままではなく、想定されている選択肢のひとつです。
内閣府のガイドラインは、学校や保育施設等に対しても、引渡しの時期や方法を検討する際に保護者の移動距離や保護者以外への引渡しの可能性等を勘案することが望ましいとしています。保護者が遠いことは、施設側も前提に入れて考えるべき事柄として扱われています。
ただし、学校での待機を選ぶなら、学校側の備えも気になるところです。文部科学省の手引きは、東日本大震災の課題として、下校させられない子どもを学校で待機させた場合の備え(食料や毛布等の備蓄)ができていなかった例を挙げ、待機時に役立つ物資として毛布・寝袋、簡易トイレ、暖房器具などを示しています。学校・園にどれくらいの備蓄があるかは、保護者会などで一度聞いてみる価値があります。
外出先で被災したときの自分自身の備えは、こちらの記事で整理しています。迎えに向かうかどうかの判断にも直結します。
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子ども本人と決めておく約束
引き渡しは大人だけの手続きに見えますが、当日いちばん不安なのは子どもです。事前に本人と話しておくと、待つ時間の不安が小さくなります。
- 誰が迎えに来るか: 「ふだんはお母さん、来られないときはおじいちゃん、それも無理なら学校で待つ」と、順番で伝えておきます。名前を言えるようにしておくと、当日の混乱でも落ち着きます。
- 迎えが来なくても心配しないこと: 「連絡が取れないのは危ないからではなく、電話が混んでいるから」と伝えておきます。理由が分かると待てるようになります。
- 先生の指示に従うこと: 勝手に帰ろうとしない、校門を出ないという約束をしておきます。
- 知らない人にはついていかないこと: 引き取り者は決まっている、と本人が知っていることが大切です。
- 登下校中に大きな揺れがあったら: 学校と自宅のどちらに向かうか、通学路のどのあたりを境にするかを、一緒に歩きながら決めておきます。
メモ
年に1回、家族で見直す
引き渡しの取り決めは、一度決めれば終わりというものではありません。子どもの進級・進学、転居、転職、代理人の引っ越しや体調の変化など、前提はどんどん変わっていきます。
- 1
年度当初に学校・園のルールを読み直す
4月に配られる手紙やアプリの案内で、引き渡しの基準や場所、連絡手段が変わっていないかを確認します。保育所保育指針の解説でも、毎年度当初の確認が挙げられています。 - 2
登録情報を更新する
勤務先、携帯番号、代理人の氏名と連絡先に変更がないか確かめ、変わっていれば学校・園に届け出ます。 - 3
家族で役割を読み合わせる
迎えに行く人の順番、行けないときの扱い、安否確認の手段を、家族全員で口に出して確認します。5分で済みます。 - 4
防災週間に子どもと話す
8月30日から9月5日の防災週間は、家庭で話題にしやすい時期です。安否確認の練習とあわせて、引き渡しの約束も確認しておきます。
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よくある質問
迎えに行けそうにありません。学校に伝えても大丈夫ですか
引き渡しカードを持たずに迎えに行ったらどうなりますか
祖父母や友人に頼むことはできますか
迎えに行ったのに引き渡してもらえないことはありますか
学校で待機することになったら、夜はどうなりますか
まとめ|まずは配られた手紙を読み返すところから
災害時の引き渡しは、学校・園と家庭の双方が同じルールを知っていて、はじめて機能します。今日できる一歩は、新しい防災グッズを買うことではなく、入学・入園時に配られた案内をもう一度読み返すことです。
引き渡しの備えとして今日やること
- 学校・園の引き渡しルール(基準・場所・連絡手段)を読み返す
- 登録している引き取り者と連絡先が最新かを確認する
- 代理人を1人決めて本人に依頼し、学校・園に届け出る
- 迎えに行く人の順番と、行けないときの扱いを家族で決める
- 『迎えが遅くなる可能性がある』ことを学校・園に伝える
- 学校・園の電話番号と引き渡し場所を紙のメモにして持ち歩く
- 子どもに『誰が迎えに来るか』と『先生の指示に従う』を伝える
この記事で挙げた内容は公的な手引きに示された考え方であって、そのまま自分の学校のルールになるわけではありません。最終的な判断は、必ず通っている学校・園と自治体の最新の案内に従ってください。そのうえで、家族の側の「誰が行くか、行けないときはどうするか」だけは、今日のうちに決めておきましょう。
出典・参考
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