家の中の「逃げ道」を確保する|地震・火災で「出られない」を防ぐ動線と出口の点検


家の防災というと、家具を固定する、備蓄を増やす、といった話が中心になりがちです。けれど、いざというときに一番困るのは「家の中は無事なのに、外に出られない」という状態かもしれません。総務省消防庁は地震防災マニュアルの中で、地震により玄関が開かないことも考えられるとして、自宅から外への避難経路を複数のルートで考えておくよう案内しています。この記事では、家具の固定やガラス対策とは別の切り口として、動線と出口だけに絞って、今日から手をつけられる点検のしかたを整理します。
「家から出られない」はなぜ起きるのか
出口がふさがれる原因は、大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。建物側の要因、家の中の物の要因、そして火災特有の要因です。
ドアがゆがんで開きにくくなることがある
強い揺れを受けると、建物や建具がわずかにゆがみ、それまで普通に開いていたドアが開きにくくなることがあります。東京消防庁は「マンションの地震対策」の中で、ドアがゆがんだり家具や家電が倒れたりして部屋やトイレなどに閉じ込められることがあり、防音性の高いマンションでは助けを呼ぶ声が聞こえにくい、という点に注意を促しています。
だからこそ、公的機関はそろって「出口の確保」を呼びかけています。総務省消防庁の「地震に自信を」では「揺れを感じたら、玄関などの扉を開けて非常脱出口を確保しましょう」、地震防災マニュアルでは「小さな揺れの時、又は揺れがおさまった後に、窓や戸を開け、出口を確保しましょう」と案内されています。東京消防庁の「地震 その時10のポイント」でも、ポイント4に「窓や戸を開け出口を確保」が挙げられ、「揺れがおさまった時に、避難ができるよう出口を確保する」とされています。
注意
倒れた家具と積んだ荷物が通路をふさぐ
家の中の要因は、家具と荷物です。東京消防庁は近年の地震被害調査で、負傷者の3割から5割が屋内での家具類の転倒・落下・移動によって負傷していたとしており、けがだけでなく火災や避難障害といった危険ももたらすと指摘しています。同庁の「自宅の家具転対策」では、避難通路や出入り口付近には転倒・移動しやすい家具類を置かないようにと案内されています。首相官邸の「災害が起きる前にできること」でも、倒れたときに出入り口をふさいだりしないよう、家具の向きや配置を工夫することがすすめられています。
見落としやすいのは、家具ではなく床に置いた荷物です。廊下に並べた段ボール、階段の隅に積んだ雑誌、玄関に置きっぱなしのベビーカーやスーツケース。ふだんは「よけて歩けばいい」もので済んでいますが、暗い中、慌てて、子どもを抱えて通るとなれば話が変わります。消防庁の地震防災マニュアルも、脱出通路に障害になるものを置かないように、と端的に書いています。
火災の煙は上に、しかも速く回る
火災の場合は、通路の広さより煙のほうが問題になります。東京消防庁の電子学習室によると、煙が広がる速さは水平方向で毎秒0.5から1メートル程度である一方、縦方向は毎秒3から5メートルと、大人が歩く速さの3から4倍にもなるとされています。上の階へ逃げるという選択が難しくなる理由がここにあります。
避難のしかたについては、同庁は「床に近い低いところは意外に見通しがきくものです。煙を吸い込まないようにハンカチやタオルなどで口と鼻をおおい、低い姿勢で煙の下を逃げましょう」と案内しています。
ドアのゆがみによる閉じ込め、家具類の転倒による避難障害、煙の広がる速さと低い姿勢での避難は、東京消防庁が公開する各ページの記載に基づいています。出口の確保と脱出ルートを複数考えることは、総務省消防庁の地震防災マニュアルおよび「地震に自信を」で案内されています。
わが家の「出口はふたつ」を決める
火災の分野では、ひとつの避難経路がふさがれてももう一方から逃げられるようにする考え方を「二方向避難」と呼びます。東京消防庁が示す共同住宅用消防計画の作成例では、居住者が行う防火管理対策として「バルコニーにおける避難障害となる物件の除去」が条件なしで挙げられています。加えて、特例基準が適用されている場合の特例条件の維持管理として、二方向避難の確保(避難器具の維持管理、ベランダ・バルコニー等に物を置かないこと)が示されています。つまり、ベランダを塞がないことはすべての居住者に共通する事項で、二方向避難の確保が計画上の維持管理項目になるかどうかは建物の条件によって変わる、という整理です。
家庭版に翻訳すると、押さえるところは4つだけです。
- 第一の出口を確認する。ふだん使う玄関です。ドアの前に物がないか、靴が散乱していないか、内側から鍵を開けて出るまでに何秒かかるかを見ます。
- 第二の出口を決める。玄関が使えないときの出口です。戸建てなら掃き出し窓や勝手口、集合住宅ならベランダが候補になります。「うちの第二の出口はここ」と、家族全員が同じ場所を言えるようにします。
- 第二の出口までの道をたどる。寝室から第二の出口まで、実際に歩いてみます。途中に家具や荷物があれば、その場でどかすか、置き場所を変えます。
- 出口が開くことを確かめる。窓の鍵、雨戸、防犯用の補助錠、網戸。「開けようとしたら固まっていた」は珍しくありません。年に一度は開け閉めしておきます。
この4つを家族そろって実際にやってみる手順は、記事の最後に「15分でできる、家族の逃げ道点検」としてまとめています。
ヒント
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廊下・階段・玄関は「置かない場所」にする
逃げ道の確保でいちばん効くのは、買い物ではなく片づけです。とくに次の場所は、収納には使わないと決めてしまうのがおすすめです。
| 場所 | 起きやすいこと | 決めごとの例 |
|---|---|---|
| 廊下 | 段ボール・買い置きが並び、通路が細くなる | 床に物を置かない。壁面収納も倒れない高さまで |
| 階段 | 「あとで上に運ぶもの」の一時置きになる | 一時置きも含めて、踏み面と踊り場に物を置かない |
| 玄関 | 靴・傘立て・ベビーカー・宅配の箱が集まる | 三和土(たたき)に出す靴は1人1足まで |
| ドアの可動範囲 | 家具や荷物でドアが全開にならない | ドアが90度開くスペースを空けておく |
集合住宅では、共用の廊下や階段も同じです。東京消防庁の共同住宅用消防計画の作成例には、居住者が行う対策として、階段・通路等の共用部分における燃えやすい物および避難障害となる物品の除去が挙げられています。同庁は防火戸の前やシャッターの下にも物を置いてはいけないとしています。自分の家の中だけでなく、玄関の外側も含めて見ておきたいところです。
寝室から玄関までの動線を安全にする
夜中の地震では、明かりがなく、床にはガラスや落下物が散らばっている可能性があります。総務省消防庁の地震防災マニュアルは、就寝時に地震が起こることもあるとして、枕元に懐中電灯やスリッパを用意しておくよう案内しています。東京消防庁の「地震に対する10の備え」でも、散乱物でけがをしないようにスリッパやスニーカーなどを身近に準備しておくこと、両手が使えるリュックサックなどに避難のときに必要なものをまとめて目につきやすい所に置いておくことが挙げられています。
置き場所を決めるときは、「寝床から出口までの一本道の上に、必要なものが順番に並んでいる」状態を目指すと迷いません。
寝室から玄関までの動線チェック
- 枕元に懐中電灯かヘッドライトがあり、手を伸ばして届く
- 厚手のスリッパか運動靴を、ベッドの下など足元にすぐ出せる場所に置いている
- 眼鏡・スマートフォンの定位置が枕元に決まっている
- 寝室から廊下へ出るドアの前に、倒れて塞ぐものがない
- 廊下と階段の床に物が置かれていない
- 玄関に持ち出し袋と履き慣れた靴があり、暗くても手探りで取れる
- 家の鍵の定位置が決まっていて、家族全員が知っている
割れたガラスは、避難の速度を大きく落とします。窓や食器棚の飛散防止と、足元の備えはセットで考えると効果が揃います。
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集合住宅のベランダ|隔て板と避難ハッチ
マンションやアパートのベランダは、単なる物干し場ではなく、避難経路として設計されていることがあります。隣戸との間にある薄い仕切り(隔て板、仕切板などと呼ばれます)は、非常時に破って隣の住戸側へ移るための開口になっている場合があります。東京消防庁の共同住宅用消防計画の作成例では、火災が発生した場合の行動として「玄関から避難できない場合にあっては、バルコニーの仕切板を破壊して隣戸から安全な場所へ避難を行う」と記されています。
床に埋め込まれたハッチ(避難ハッチ)は、ふたを開けるとはしごが下の階へ降りる仕組みです。東京消防庁によると、避難はしごには固定はしご・つり下げはしご・立てかけはしごの3種類があり、ハッチに組み込まれるものも建物によって異なります。同庁は避難はしごについて、マンションなどに住む人ははしごの降下口の上に物を置いたり、上の階からはしごが下りてくる場所に物を置いたりしてはいけない(同庁の記述では「固定はしご」)としています。自分の階だけでなく、上の階から降りてくる先も空けておく必要がある、という点は見落としがちです。
注意
ベランダで置き場所を見直したいものの例を挙げます。植木鉢やプランター、物置ボックス、タイヤ、室外機カバー、自転車、まとめて置いた段ボール。いずれも、ふだんは邪魔になっていなくても、隔て板の前や避難ハッチの上にあると避難の妨げになります。なお、火災時の避難では原則としてエレベーターは使いません。これも同庁の作成例に明記されています。
バルコニーにおける避難障害となる物件の除去、玄関から避難できない場合に仕切板を破壊して隣戸へ避難すること、避難時に原則エレベーターを使用しないことは、東京消防庁が公開している共同住宅用消防計画の作成例に記載されています(二方向避難の確保は、同作成例では特例基準が適用されている場合の維持管理項目として示されています)。避難器具の降下口や降下先に物を置かないことは、同庁の「火災の時に役立つ建物の設備」で案内されています。
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戸建て2階の脱出手段は「最後の選択肢」
戸建ての2階については、総務省消防庁の地震防災マニュアルが、2階などからの脱出用に避難はしごを用意しておくことを挙げています。一方で東京消防庁は、避難器具について「階段を利用して避難することができなくなり、逃げ遅れた場合に活用して避難する器具」と位置づけています。つまり、はしごは階段が使えるうちに使うものではなく、行き止まりになったときの最後の選択肢だということです。
この前提に立つと、2階の備えは次のように整理できます。
- まずは階段が使える状態を保つ。階段に物を置かないことが、はしごを買うより先にできる対策です。
- 窓が開くかを確かめる。転落防止の格子や補助錠で開かない窓は、逃げ道として数えられません。
- はしごを用意する場合は、置き場所とかけ方を家族で共有する。押し入れの奥にしまい込むと、必要なときに出せません。
- 高齢の家族や小さな子どもがいる場合、はしごでの降下は現実的でないことがあります。無理に降りるか、その場で助けを求めるかの判断は状況によります。
窓があっても高くて降りられない場合について、千葉市消防局は、窓を開けて外の人に助けを求めること、寝室のシーツや枕カバーなどの大きな布を窓の外で振りながら助けを求めると、消防隊に自分の居場所を発見してもらえる可能性が高くなることを案内しています。同局はあわせて、寝室のドアを閉めて寝ると煙の流入を抑えられること、ドアノブが熱いときは開けずに別のドアや窓から脱出することも示しています。
注意
窓から助けを求める方法、寝室のドアを閉めて寝ること、ドアノブが熱いときの行動は、千葉市消防局「火災になった家から無事に逃げるためには?」の記載に基づいています。避難器具の位置づけは東京消防庁「火災の時に役立つ建物の設備」、2階からの脱出用の避難はしごは総務省消防庁の地震防災マニュアルによります。
停電した夜でも、出口までたどり着けるか
逃げ道の点検で最後に確かめたいのが、明かりのない状態です。停電した夜は、間取りを知っている自宅でも歩き方が変わります。
- 1
夜、家族がそろっているときに実施する
弱点を見つけるのが目的なので、床の物は原則そのままにします。ただし、ガラス・刃物・大きな段差など明らかに危険なものだけは先にどかしておきます。 - 2
部屋の明かりを消す
真っ暗にするのが不安なら、廊下の常夜灯だけ残しても構いません。子どもが怖がらない範囲で行います。 - 3
寝室から玄関まで歩く
手探りで懐中電灯を取り、スリッパを履き、玄関の鍵を開けてドアを開けるところまでをやってみます。 - 4
つまずいた場所をメモする
引っかかった物、ぶつかった家具、探すのに時間がかかったもの。それが、そのままわが家の改善リストになります。
充電式の足元灯(センサーライト)を廊下や階段に置くと、停電時に自動で点灯するタイプもあり、動線の安心感が上がります。
なお、逃げ道が確保できていても、火事に気づくのが遅れれば逃げる時間そのものが足りなくなります。住宅用火災警報器が今も鳴るかどうかは、逃げ道点検と同じ日に確かめておきたい項目です。
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15分でできる、家族の逃げ道点検
ここまでの内容を、休日の15分でできる手順にまとめました。道具は要りません。家族そろって家の中を歩くだけです。なお、身の守り方・安否確認・備えを使う練習まで含めた訓練全体の回し方は別記事で扱っています。ここでは動線と出口の点検だけに絞ります。
- 1
0〜3分|玄関に集まって、出口を2つ言う
「第一の出口は玄関、第二の出口はリビングの掃き出し窓」のように、家族全員で声に出して確認します。集合住宅ならベランダの隔て板や避難ハッチの位置も、この時間に見に行きます。 - 2
3〜7分|寝室から玄関まで、全員で歩く
大人がふだん通るルートではなく、子どもや高齢の家族の歩き方で歩きます。狭いところ、段差、置きっぱなしの物を見つけたら、その場で口に出します。 - 3
7〜11分|見つけた障害物を片づける
見つけたその場でどかすのがコツです。「あとでやる」にすると、たいてい元に戻ります。廊下・階段・玄関・ドアの可動範囲の4か所を優先します。 - 4
11〜14分|窓と鍵を開けてみる
第二の出口に決めた窓、勝手口、雨戸を実際に開けます。固い、鍵が回らない、補助錠の外し方を知らない、といった問題はここで見つかります。 - 5
14〜15分|次にやることを1つ決める
「センサーライトを買う」「玄関の靴を減らす」など、次の1つだけを決めて終わります。欲張らないほうが続きます。
この15分の点検は、防災訓練の中の「避難経路を歩いて確かめる」部分を単独で取り出したものです。身の守り方や安否確認まで含めて年に数回まわしたい場合は、次の記事の組み立て方が使えます。
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家庭でできる防災訓練のやり方|15分の「4つの練習」と年2回で定着させる回し方
よくある質問
地震のとき、すぐに玄関のドアを開けたほうがよいのですか
ドアが開かなくなったらどうすればよいですか
ベランダの隔て板は、本当に破ってよいのですか
ベランダに物を置くのはすべてだめですか
2階建ての家に避難はしごは必要ですか
賃貸でもできることはありますか
まとめ|買う前に、歩いてみる
逃げ道の確保は、防災グッズを買い足す前にできる備えです。消防庁は自宅から外への避難経路を複数のルートで考えるよう案内し、脱出通路に障害になるものを置かないことをすすめています。東京消防庁は避難通路や出入り口付近に転倒・移動しやすい家具類を置かないことを、首相官邸は倒れたときに出入り口をふさがない家具の配置を呼びかけています。どれも、今日15分あれば着手できることばかりです。
まずは家族そろって、寝室から玄関まで歩いてみてください。そこで見つかった段ボールひとつを片づけることが、いちばん確実な一歩になります。建物ごとの設備や規約に関わる部分は、管理会社・管理組合や自治体・消防の最新の案内を優先して確認してください。「もしも」の逃げ道を「いつも」開けておくことが、家族の安心につながります。
出典・参考
- 地震防災マニュアル「4.自宅の脱出ルートを考える」/総務省消防庁
- 地震防災マニュアル「揺れが収まったら 1.身の安全の確保」/総務省消防庁
- 地震に自信を「あなたを守る次の行動-1 まず落ち着いて身の安全を確保する」/総務省消防庁
- 地震 その時10のポイント/東京消防庁
- 地震に対する10の備え/東京消防庁
- マンションの地震対策/東京消防庁
- 自宅の家具転対策/東京消防庁
- 電子学習室「やってみよう!防災訓練~避難のしかた~」/東京消防庁
- 第12章 火災の時に役立つ建物の設備/東京消防庁
- 第4節 共同住宅用消防計画(作成例)/東京消防庁
- 災害が起きる前にできること/首相官邸
- 火災になった家から無事に逃げるためには?/千葉市消防局
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