モシモニア
防災グッズ

家庭用の救出工具の選び方比較|バール・ジャッキ・のこぎり・ハンマーで「家具の下敷き・ドアが開かない」に備える

ツムギ・住まいの防災・ライフライン担当
・ 約31分で読めます
家庭用の救出工具の選び方比較|バール・ジャッキ・のこぎり・ハンマーで「家具の下敷き・ドアが開かない」に備える

大きな地震のあと、倒れた本棚の下から家族の声がする。寝室のドアがゆがんで、内側からも外側からも開かない。考えたくない場面ですが、東京消防庁は、大地震のあとには建物の倒壊や家具などの転倒で、多くの人が救助を必要とする事態が起きると説明しています。この記事で扱うのは、そうした「家具の下敷き」と「閉じ込め」に備えて家に置いておく救出工具です。バール、ジャッキ、折りたたみのこぎり、ハンマー・多機能工具、革手袋とヘッドライト、市販の救出工具セットの6タイプを、長さと重さ・耐荷重・置き場所・家族が扱えるかという4つの軸で比べます。道具の話の前に、いちばん大切な順番も確認しておきます。

ヒント

この記事にはアフィリエイト広告を含みます。紹介する商品は「選び方の目安」を示すための代表的なタイプであり、特定の型番を断定的に推奨するものではありません。価格・在庫・仕様は変動するため、購入前に各販売サイトとメーカーの最新情報を必ずご確認ください。

最初に|道具より先に「下敷きにならない部屋」をつくる

救出工具を選ぶ前に、順番をはっきりさせておきます。いちばん確実な備えは、そもそも家具の下敷きにならないこと、ドアの前を家具でふさがないことです。

東京消防庁は「地震に対する10の備え」の最初に、家具類の転倒・落下・移動防止対策を挙げ、けがの防止や避難に支障のないように家具を配置しておくことを求めています。マンション向けの地震対策でも、閉じ込めへの対策として、家具や家電が転倒しないよう固定すること、転倒してもドアをふさがないレイアウトにすることを挙げています。

救出工具は、固定しきれなかった家具や、自分たちの力ではどうにもならない揺れへの「上乗せの備え」と考えてください。まだ寝室の家具を固定していないなら、この記事の工具より先に、そちらから手をつけるのがおすすめです。

家具の固定と配置は東京消防庁「地震に対する10の備え」、閉じ込めへの対策は東京消防庁「地震!そのときマンションは」の記述によります。

あわせて読みたい

家具の固定と寝室の安全対策|地震のけがを減らす週末1回の作業手順

なぜ家庭に救出工具か|阪神・淡路大震災で助けたのは誰だったか

平成26年版防災白書は、阪神・淡路大震災について、生き埋めや閉じ込めにあった人の救助主体を調べた調査(日本火災学会、1996年)を紹介しています。その内訳は次のとおりです。

救助の主体割合
自力で脱出34.9%
家族31.9%
友人・隣人28.1%
通行人2.6%
救助隊1.7%
その他0.9%

白書は、自力で脱出したり、家族、友人、隣人などに救出されたりした割合が約9割を超え、救助隊によるものは1.7%だったとしています。東京消防庁は、同じ調査結果を自助・共助・公助に集約した図(自助66.8%、共助30.7%、公助1.7%)を示し、自力脱出と家族による「自助」、友人・隣人・通行人による「共助」を合わせると97.5%が住民どうしの助け合いで助かったと説明しています。別の資料(令和8年版防災白書の図表)でも、倒壊した建物から救出された人のうち、近隣住民等によるものが約27,000人(約77.1%)、消防・警察・自衛隊によるものが約8,000人(約22.9%)と示されています。白書はその背景として、倒壊した建物からの救助と、地震で起きた火災の消火を行政が同時に行う必要があり、すべての現場に救助隊が速やかに着くことは難しかった点を挙げています。

では、住民はどうやって助けたのか。東京消防庁の消防少年団向けの手引きは、阪神・淡路大震災では、閉じ込められた人の家族や近所の人々が協力して、バールやのこぎり、車のジャッキなど身近にあるものを使って救助・救出活動を行い、たくさんの人が助けられたと書いています。内閣府の教訓情報資料集にも、警察や消防の救出用資機材は限りがあって不足し、自動車整備工場などの民間の資機材や、付近の住民から借りた資機材も使われたとあります。

同じ手引きは、救助・救出活動は特別な資器材がなくても、家や近くの事業所にある身近な資器材(ジャッキ、毛布、バール、のこぎりなど)を活用して行えると説明しています。家庭に置く救出工具は、この「身近な資器材」を、いざというときに迷わず手に取れる形でそろえておくもの、と考えるとイメージしやすくなります。

救助主体の割合は内閣府「平成26年版 防災白書」本文と図表2(標本調査:日本火災学会「1995年兵庫県南部地震における火災に関する調査報告書」)、救出者数は内閣府「令和8年版 防災白書」図表1-1-1(出典:河田惠昭「大規模地震災害による人的被害の予測」)、自助・共助の割合の説明は東京消防庁「阪神・淡路大震災から学ぶ自助、共助の大切さ」、身近な道具による救出は東京消防庁「第10章 救助・救出訓練の指導」、資機材の不足は内閣府「阪神・淡路大震災教訓情報資料集【01】救出・救助」の記述によります。

家庭で想定する2つの場面|閉じ込めと下敷き

家庭で救出工具が役立つ場面は、大きく2つに分けられます。

  • 閉じ込め: ドアや窓がゆがんで開かない、倒れた家具がドアをふさいでいる。東京消防庁は、マンションではドアがゆがんだり家具や家電が倒れたりして部屋やトイレに閉じ込められることがあり、防音性が高いと助けを呼ぶ声が聞こえないと注意しています。東京都の防災ブック「東京防災」は、バールの使い方の例として、地震で開かなくなったドアや窓をこじ開けて中の人を救助することを挙げています
  • 下敷き: 倒れた本棚やタンスに体の一部が挟まれている。東京消防庁の手引きは、てこの原理で家具などを持ち上げて空間をつくり、すき間があれば自動車用ジャッキで持ち上げる方法を紹介しています。場合によっては家具の一部を壊し、中の物を取り出して軽くすることも挙げています

閉じ込めでは「こじ開ける」「壊して通り道をつくる」道具、下敷きでは「持ち上げる」「支える」「軽くする」道具が主役になります。自分が閉じ込められる側になることもあるので、東京防災が勧めるように、大声を出し続けて体力を使い果たすより、硬い物でドアや壁をたたいて音で知らせる方法も覚えておきましょう。

閉じ込めの状況は東京消防庁「地震!そのときマンションは」、ドアのこじ開けと音で知らせる方法は東京都「東京防災」222〜223ページ、下敷きからの救出方法は東京消防庁「第10章 救助・救出訓練の指導」の記述によります。

あわせて読みたい

防災ホイッスル・防犯ブザーの選び方比較|音で居場所を知らせる備え

選ぶ前に見る4つの軸

  • 長さと重さ(てこの力と取り回し): バールは長いほど、てこで大きな力を出しやすくなります。一方で重くなり、狭い室内や家具のすき間では振り回しにくくなります。製品の長さと重量の表示を見て、実際に持てるかを確かめます
  • 耐荷重: ジャッキは「定格荷重(2トンなど)」に加えて、いちばん縮めたときの高さ(最低位)と、伸ばしたときの高さ(最高位)を見ます。最低位より狭いすき間には差し込めないからです。東京防災は、持ち上げる物にすき間がない場合はバールなどでスペースをつくるとしています
  • 置き場所: 寝室・玄関・物置のどこに何を置くか。救出工具は「その部屋が使えなくなったら取り出せない」道具なので、1か所にまとめない考え方が役立ちます(後の章で詳しく扱います)
  • 家族が扱えるか: 力の強い人がいつも家にいるとは限りません。重すぎないか、仕組みが単純か、家族の誰がどこにあるか知っているかを確認します

6タイプを比較する

タイプ主な役割長さ・重さ耐荷重の見方置き場所の例家族の扱いやすさ価格の目安
バール(60cm前後)ドアのこじ開け、すき間づくり片手〜両手で扱える長さ。比較的軽いてこの長さと支点で力が決まる寝室・玄関比較的扱いやすい1,000〜3,000円前後
バール(90cm前後)てこで重い物を持ち上げる長いぶん力を出しやすいが重く、狭い所で扱いにくい同上玄関・物置力と作業スペースが要る2,000〜5,000円前後
ジャッキ(油圧ボトル式・パンタグラフ式)重い物を持ち上げる小型だが重さは製品差が大きい定格荷重と最低位・最高位を確認玄関・物置(車載ジャッキは車)操作は単純。当て木と補強の知識が要る2,000〜6,000円前後
折りたたみのこぎり木材や家具の一部を切る刃渡り20cm前後が多く、たためば小さい(該当なし)玄関・寝室刃物なので子どもの手の届かない所へ数百円〜3,000円前後
ハンマー・多機能工具たたいて壊す、音を出す片手用が扱いやすい(該当なし)玄関振り回すので周囲に注意1,000〜3,500円前後
革手袋・ヘッドライト作業中のけがを防ぎ、両手を空ける軽い(該当なし)寝室(枕元)・玄関誰でも使える手袋は1双数百円〜2,500円前後
市販の救出工具セット一式をケースにまとめるケース込みで重め同梱ジャッキの定格荷重を確認玄関・物置中身と使い方の把握が前提家庭向けは1万〜4万円前後

価格・寸法は執筆時(2026年9月)に楽天市場・Yahoo!ショッピングの検索結果で見られた代表的な商品の範囲をもとにした目安で、特定商品の価格を示すものではありません。仕様はメーカー公表値を確認してください。

タイプ1|バール(長さで役割が変わる)

バールは、てこの力で重い物を動かしたり、すき間に差し込んでこじ開けたりする道具です。東京防災は、災害時に建物や車に閉じ込められた人を救出するための道具としてバールを紹介しています。東京消防庁の手引きも、倒壊建物からの救助で、活動の妨げになる部分を壊して取り除くときにバールやのこぎりを使うとしています。

市販品は30cm前後の小型から、90cm・120cmといった大型まであり、長さで得意な場面が変わります。家庭で扱いやすいのは、60〜90cm前後が目安です。

  • 60cm前後: ドアのすき間に差し込んでこじ開ける、家具のすき間を広げるといった作業向き。室内でも取り回しやすく、寝室や玄関に置きやすい長さです
  • 90cm前後: てこで重い家具を持ち上げる作業向き。そのぶん重く、振る・差し込むには作業スペースが要ります

どちらか1本なら、家族の誰が使うかで考えます。力に自信がない人が多い家庭は、軽めの60cm前後を寝室と玄関に。重い家具が多く、扱える人がいる家庭は、90cm前後を玄関や物置に加える、という分け方ができます。

長めのバール(90cm前後・てこ作業向き)

広告
長めのバール(90cm前後・てこ作業向き)

価格の目安: 2,000〜5,000円前後が目安(形状・材質・メーカーで幅がある)

てこで重い物を持ち上げる作業の主役になる長さです。「長さ」「重量」「曲がりにくさ(六角・平など断面の形)」「先端の形(釘抜き側と平たい側)」を確認しましょう。パイプ製の軽量タイプもあるので、家族が実際に持てる重さかどうかを重視して選ぶと失敗しにくくなります。

※価格・在庫は変動します。最新の情報は各販売サイトでご確認ください。

室内で扱いやすいバール(60cm前後・こじ開け向き)

広告
室内で扱いやすいバール(60cm前後・こじ開け向き)

価格の目安: 1,000〜3,000円前後が目安(形状・メーカーで幅がある)

ドアのこじ開けや、家具のすき間を広げる作業に向く長さです。寝室のクローゼットやベッドの近くにも置きやすく、長いバールと2本立てにする場合の「室内用」にも向きます。先端がすき間に入る薄さかどうかも見ておきましょう。

※価格・在庫は変動します。最新の情報は各販売サイトでご確認ください。

メモ

バールでてこを使うときは、支点に角材などの堅く安定した物を使います。東京消防庁の手引きは、てこに使う柱は太さ10cm以上で亀裂のない丈夫なものを使うよう注意しています。バールと一緒に、支点や支えに使える角材を何本か用意しておくと、ジャッキを使うときにも役立ちます。

バールの用途は東京都「東京防災」223ページ、倒壊建物からの救助でのバール・のこぎりの使用と、てこの支点・柱の注意は東京消防庁「第10章 救助・救出訓練の指導」の記述によります。バールの長さの目安は、執筆時(2026年9月)の通販サイトの商品の範囲をもとにしたものです。

タイプ2|ジャッキ(油圧ボトル式・パンタグラフ式、車載ジャッキの流用も)

ジャッキは、重い物を少ない力で持ち上げる道具です。東京消防庁の手引きは、下敷きになった人の救出で、すき間があれば自動車用のジャッキを使って持ち上げ、持ち上げてできた空間が崩れないよう角材などで補強するとしています。

家庭で選ばれやすいのは次の2つです。

  • 油圧ボトルジャッキ(だるまジャッキ): 縦に伸びる筒形で、2トン前後の定格荷重の製品が多く見られます。コンパクトで力を出しやすい反面、最低位(縮めたときの高さ)がある程度あるため、差し込めるすき間の高さを確認しておく必要があります
  • パンタグラフジャッキ: ひし形の枠をねじで広げるタイプで、乗用車に積まれていることが多い形です。東京防災も、緊急時に乗用車に載せているパンタグラフジャッキで重い物を持ち上げる方法を紹介しています

車を持っている家庭は、まず車載ジャッキを使う場面を想定しておくのが現実的です。東京消防庁も、車載ジャッキなど身の周りにあるものの活用を考えておくよう呼びかけています。ただし、車の場所によっては地震のあとすぐに取り出せないこともあります。車載ジャッキは本来タイヤ交換用の道具なので、車の取扱説明書で使い方の注意を一度読んでおきましょう。車がない家庭や、車と家が離れている家庭は、家の中に1台置いておくと安心です。

油圧ボトルジャッキ(定格荷重2トン前後)

広告
油圧ボトルジャッキ(定格荷重2トン前後)

価格の目安: 2,000〜6,000円前後が目安(定格荷重・メーカーで幅がある)

家に置くジャッキの候補です。「定格荷重」「最低位と最高位」「収納ケースの有無」「重量」を確認しましょう。最低位が高いと家具の下に入らないので、薄いすき間はバールで広げてから差し込む、という組み合わせで考えます。保管のしかたや使える向きは製品ごとに違うため、取扱説明書に従ってください。

※価格・在庫は変動します。最新の情報は各販売サイトでご確認ください。

自動車用ジャッキでの持ち上げと角材での補強は東京消防庁「第10章 救助・救出訓練の指導」、パンタグラフジャッキの活用とすき間がない場合のバールの利用は東京都「東京防災」223ページ、車載ジャッキなど身の周りのものの活用は東京消防庁「地震に対する10の備え」の記述によります。

タイプ3|折りたたみのこぎり(家具の一部を切って軽くする)

のこぎりは、倒れた家具の一部や木材を切って、通り道をつくったり重さを減らしたりするために使います。東京消防庁の手引きは、救助の妨げになる部分を壊して取り除く資器材としてのこぎりを挙げ、転倒した家具の一部を壊して中の物を取り出し、重量を軽くする方法も紹介しています。総務省消防庁の防災危機管理eカレッジも、倒壊家屋からの救助で収容物の除去や移動に必要な資器材として、ハンマー・かなづち、斧、のこぎり、スコップなどを挙げています。

家庭用なら、刃をたためる折込鋸(おりこみのこ)が置きやすく、刃渡り20cm前後の木工用・剪定用が多く見られます。替え刃式なら、切れ味が落ちたときに刃だけ交換できます。

折りたたみのこぎり(折込鋸・刃渡り20cm前後)

広告
折りたたみのこぎり(折込鋸・刃渡り20cm前後)

価格の目安: 数百円〜3,000円前後が中心の目安(刃渡り・替え刃式かどうかで幅がある)

たためば引き出しや工具箱にも収まり、ふだんは庭木の手入れや粗大ごみの解体にも使えます。「刃渡り」「木工用か万能か」「替え刃式か」「刃を固定するロックの有無」を確認しましょう。刃物なので、子どもの手の届かない場所に置いてください。

※価格・在庫は変動します。最新の情報は各販売サイトでご確認ください。

メモ

梁や柱は、切る場所によっては崩れてくることがあります。東京消防庁の手引きは、切断するときは十分注意するよう呼びかけています。家具を切る場合も、切った部分が倒れてこないか、下にいる人に当たらないかを確かめ、声をかけながら少しずつ進めます。

のこぎりによる救出と切断時の注意は東京消防庁「第10章 救助・救出訓練の指導」、収容物の除去に必要な資器材は総務省消防庁「防災危機管理eカレッジ 2.倒壊家屋からの救助」の記述によります。刃渡りの目安は、執筆時(2026年9月)の通販サイトの商品の範囲をもとにしたものです。

タイプ4|ハンマー・多機能工具(たたいて壊す、音で知らせる)

ハンマーは、じゃまな板を外したり、くぎを打ち込んだ部分を壊したりするのに使います。東京消防庁の消防少年団の指導者向け手引きも、リーダー団員の達成目標として「ハンマー・のこぎり等を活用した簡単な救助方法を指導することができる」ことを挙げています。閉じ込められたときに、ドアや壁をたたいて音で居場所を知らせる道具としても使えます。

家庭で扱うなら、片手で振れる重さのものが基本です。バールの先に打撃面があるものや、1本で複数の機能をもつ多機能工具もありますが、1本に機能を詰め込むほど、それぞれの使い勝手は専用品に及ばないこともあります。手持ちの工具箱にある金づちやハンマーで足りるなら、まずはそれを救出工具の置き場所に移すところから始めても十分です。

片手ハンマー(家庭で振りやすい重さ)

広告
片手ハンマー(家庭で振りやすい重さ)

価格の目安: 1,000〜3,500円前後が目安(重さ・柄の材質で幅がある)

重さの表示(ポンドやグラム)を見て、家族が片手で振れるものを選びましょう。柄が滑りにくいか、頭が抜けにくい作りかも確認します。車の窓を割る脱出用ハンマーとは用途が違うので、車の備えは別に考えてください。

※価格・在庫は変動します。最新の情報は各販売サイトでご確認ください。

ハンマー・のこぎり等を活用した救助方法は東京消防庁「消防少年団手引き(指導者)第15章 救助」、音で知らせる方法は東京都「東京防災」222ページの記述によります。

あわせて読みたい

車に積んでおく防災グッズの選び方比較|脱出ハンマー・車載電源・防災セット・停止表示器材

タイプ5|革手袋とヘッドライト(作業する人を守る)

救出の道具と同じくらい大切なのが、作業する人を守る道具です。東京消防庁の手引きは、救助・救出活動でいちばん大切なのは自分がけがをしないことだとして、手袋、運動靴、ヘルメット、長そでの着用を求めています。総務省消防庁の防災危機管理eカレッジも、救出活動のときは軍手などの手袋やヘルメット・帽子などを着用して身を守ることを挙げています。

倒れた家具のまわりには、割れたガラスや飛び出したくぎがあります。バールやのこぎりを握るなら、軍手より丈夫な革手袋が安心です。また、夜の地震では停電で室内が真っ暗になることがあります。両手を使う作業には、頭に着けるヘッドライトが向いています。

牛革の作業用手袋

広告
牛革の作業用手袋

価格の目安: 1双数百円〜2,500円前後が目安(牛床革の安価品から当て付きのものまで幅があり、まとめ売りもある)

バールやジャッキと同じ場所に、作業する人数分を置いておきたい手袋です。「サイズ(家族の手に合うか)」「当て布で補強されているか」「手首を締められるか」を確認しましょう。溶接用の長いものは手首まで守れる反面、細かい作業がしにくいこともあります。

※価格・在庫は変動します。最新の情報は各販売サイトでご確認ください。

救出時の手袋・ヘルメットなどの着用は、東京消防庁「第10章 救助・救出訓練の指導」と総務省消防庁「防災危機管理eカレッジ 2.倒壊家屋からの救助」の記述によります。

ヘッドライトの選び方は、明るさや電池の種類も含めて別の記事で比較しています。

あわせて読みたい

防災用ライトの選び方比較|LEDランタン・懐中電灯・ヘッドライト・キャンドル型を用途別に

タイプ6|市販の救出工具セット(一式をまとめて置く)

バール、ジャッキ、のこぎり、ハンマー、手袋などを1つのケースやバッグにまとめたセットもあります。家庭向けの小ぶりなものから、背負い式や収納ボックス型の大きなもの(町会やマンションの備蓄向け)まで幅があります。

セットの利点は、必要な道具がそろっていて、置き場所が1か所で済むことです。一方で、すべてを1か所に置くと、その場所に近づけないときに何も使えなくなります。また、ケースごと持つと重くなりがちです。セットを選ぶ場合も、中身を一度ケースから出して、家族で名前と使い方を確認しておきましょう。

家庭向けの救出工具セット(バール・ジャッキ・のこぎりなどのケース入り)

広告
家庭向けの救出工具セット(バール・ジャッキ・のこぎりなどのケース入り)

価格の目安: 家庭向けは1万〜4万円前後が目安(背負い式・収納ボックス型の大型セットは5万円以上も)

道具を一から選ぶのが大変な人向けです。「同梱のバールの長さ」「ジャッキの定格荷重と最低位」「ケースを含めた総重量」「のこぎりや手袋が入っているか」を確認しましょう。マンションや町会で共同購入するなら、どこに置き、誰が鍵を持つかも一緒に決めておくと安心です。

※価格・在庫は変動します。最新の情報は各販売サイトでご確認ください。

東京防災は、バールやジャッキなどの救難器具が地域の防災倉庫に備えてある場合もあるとしています。自宅でそろえる前に、町会や自治会、マンションの管理組合にどんな資機材があるかを聞いてみるのもよい方法です。

地域の防災倉庫の救難器具は東京都「東京防災」223ページの記述によります。セットの構成と価格の幅は、執筆時(2026年9月)の通販サイトの商品の範囲をもとにした目安です。

あわせて読みたい

ご近所・地域との共助の始め方|つきあいが薄くてもできる、災害時の助け合いの備え

使う前に知っておきたい安全の注意

救出工具は、使い方を誤ると、助ける側がけがをしたり、挟まれている人を傷つけたりするおそれがあります。内閣府の教訓情報資料集には、阪神・淡路大震災で、救出活動中に余震などによる建物倒壊で生き埋めになった例や、火災が迫って市民による救出活動が中断した例が記録されています。総務省消防庁も、救出活動には危険が伴う場合があるとして、できるだけ複数で協力して行うよう呼びかけています。

注意

救出に向かう前と作業中は、次の4つを必ず守ってください。二次倒壊のおそれがあるときは近づかない。119番通報と周囲への応援要請を並行して行い、一人で作業しない。ジャッキは当て木をして少しずつ上げ、上げた分だけ角材などで支える。ガスのにおいがしたら、ブレーカーを含む電気のスイッチの操作など火花の出るおそれのあることはせず、窓や戸を開けてガス事業者へ連絡する。助ける人がけがをしては救出が続けられません。危ないと感じたら手を止めて、消防の到着を待つことも大切な判断です。

4つの注意の根拠と中身は次のとおりです。

  • 建物が大きく傾いている、壁や天井が崩れかけているなど、二次倒壊のおそれがあるときは近づかないでください。東京消防庁の手引きは、倒壊した建物にやむを得ず入るときは余震の有無や足場の安全などを確かめ、二次災害が起こらないよう十分注意するとしています
  • 119番通報を試みると同時に、周囲に声をかけて応援を求めてください。東京消防庁は、震災発生時は119番通報がつながりにくくなるとしており、消防がすぐに来られないこともあります(阪神・淡路大震災では、被災の激しかった地域で電話も利用できず、消防署や警察署への駆け込みによる救助の要請が殺到しました)。東京消防庁の手引きは、救助のときはまわりの人に声をかけて応援を求め、リーダーを決めて声をかけ合いながら進めるとしています
  • ジャッキは丈夫で平らな場所に置き、当て木をして使います。一気に上げず、持ち上げる高さは救出に必要な分にとどめ、上げてできた空間はそのつど角材などで支えてください。東京防災は、ジャッキで確保したスペースには当て木などを当て、万一ジャッキが外れても重い物が落ちないようにするとしています
  • ガスのにおいがしたら、火花の出るおそれのある作業はしないでください。日本ガス協会は、ガス臭いときは火気を使わず、換気扇や電灯などの電気のスイッチの入/切でも着火源となる小さな火花が出るため絶対に触らないよう、窓や戸を大きく開けてガス事業者へ連絡するよう案内しています。東京ガスネットワークも、ガスのにおいがしたら火をつけたり換気扇や電気のスイッチに触ったりしないよう呼びかけています。ブレーカーも電気のスイッチなので、ガスのにおいがするときは操作せず、窓や戸を開けてガス事業者へ連絡してください
  • ガスのにおいがしない場合でも、救出を始める前に火災への備えをしておきます。総務省消防庁の防災危機管理eカレッジは、倒壊現場付近ではいつ火災が起きるかわからないため消火器や水バケツなどを用意し、倒壊建物のガスの元栓や電気のブレーカーを切ることも大切だとしています

もうひとつ、挟まれていた時間が長い人を助けるときに知っておきたいのが、クラッシュ症候群(クラッシュシンドローム)です。東京消防庁の手引きは、重い物に長時間挟まれたあと圧迫から解放されると、命に関わる状態になることがあると説明し、不用意に引きずり出したり、本人の意思を無視して急に動かしたりしないよう注意しています。長時間圧迫されていた場合は、全身の症状が軽く見えても、暗赤色の尿が出る、腫れる、感覚がなくなるといったことがあれば、速やかに医師の診察を受けることが必要としています。総務省消防庁の防災危機管理eカレッジも、長時間倒壊家屋の下敷きになった人は救出後に容体が急変する場合があるため、医師等による適切な処置が必要だとしています。助け出したら終わりではなく、医療につなぐところまでを考えておきましょう。

危険の事例と、電話が使えず駆け込みによる救助要請が殺到したことは内閣府「阪神・淡路大震災教訓情報資料集【01】救出・救助」、119番通報がつながりにくくなることは東京消防庁「地震!そのときマンションは」、複数での救出は総務省消防庁「地震防災マニュアル」、二次災害・応援要請・クラッシュシンドロームは東京消防庁「第10章 救助・救出訓練の指導」、救出後の医師等による処置と救出前の火災への備えは総務省消防庁「防災危機管理eカレッジ」、ジャッキの注意点は東京都「東京防災」223ページ、ガスのにおいがするときの注意は日本ガス協会「ガス臭いと感じたら」、東京ガスネットワーク「地震や台風などの自然災害がおきたときは」の記述によります。実際の救出の判断は現場の安全を最優先にし、消防など公的機関の指示に従ってください。

置き場所を分ける|寝室・玄関・物置

救出工具は「使いたい部屋にない」と役に立ちません。寝室のドアが開かないときに、バールが寝室の外の物置にあっては手が届きません。反対に、物置が倒れた家具でふさがれていれば、そこにある道具は取り出せません。そこで、役割ごとに分けて置く考え方をおすすめします。

  • 寝室: 内側から出るための道具。60cm前後のバール、ヘッドライト、革手袋、音で知らせるホイッスルを、ベッドの近くの倒れた家具にふさがれにくい場所へ
  • 玄関: 家族を助けに行くための主力。長めのバール、ジャッキ、折りたたみのこぎり、ハンマー、手袋、角材を、靴やヘルメットと同じ場所にまとめて
  • 物置・車: 大きな物やかさばる物。長いバールや救出工具セット、車載ジャッキ。家の外からでも取り出せる場所にあると、家の中が使えないときの予備になります

ヒント

置き場所を決めたら、家族全員に「どこに・何が」あるかを伝え、できれば実物を手に取ってもらいましょう。東京消防庁は、日ごろから防災訓練に参加して救出などの行動を身につけておくことを呼びかけています。地域の防災訓練などでジャッキやバールを実際に使ってみる機会があれば、ぜひ家族で参加してください。

防災訓練への参加は東京消防庁「地震に対する10の備え」の記述によります。置き場所の分け方は、閉じ込めと下敷きの2つの場面を想定した考え方の一例です。

まず寝室の本棚を固定して、そのあとで道具を寝室用と玄関用に分けました。最初は全部を物置にまとめるつもりでしたが、寝室から出られない場面を考えたら、手袋とライトくらいは枕元に置いておきたいと思って。車のジャッキがどこにあるかも、家族で一度確かめました。
戸建てで小学生と暮らす読者

よくある質問

バールは何cmのものを選べばよいですか
用途で選びます。ドアのこじ開けや家具のすき間を広げる作業なら、室内で扱いやすい60cm前後。てこで重い家具を持ち上げる作業を想定するなら、力を出しやすい90cm前後が候補です。長いほど重くなるので、家族が実際に持てるかを確認してください。1本だけなら、使う人の力と置き場所に合わせて決め、可能なら寝室用と玄関用の2本立てにすると安心です。
車に積んでいるジャッキで代用できますか
東京都の防災ブック「東京防災」も、緊急時に乗用車に載せているパンタグラフジャッキで重い物を持ち上げる方法を紹介しています。東京消防庁も車載ジャッキなど身の周りのものの活用を考えておくよう呼びかけています。ただし車の場所によってはすぐ取り出せないことがあり、車載ジャッキは本来タイヤ交換用です。取扱説明書で使い方の注意を確認し、車がない家庭や車と家が離れている家庭は、家の中にも1台置いておくと安心です。
ジャッキはどれくらいの耐荷重が必要ですか
家具の重さは種類や中身で大きく違うため、一律の答えはありません。家庭向けでは定格荷重2トン前後の油圧ボトルジャッキが多く見られます。あわせて、いちばん縮めたときの高さ(最低位)を必ず確認してください。最低位より狭いすき間には入らないので、バールですき間をつくってから差し込むことになります。持ち上げた空間は、そのつど角材などで支えることが大切です。
救出工具セットと単品、どちらがよいですか
一から選ぶのが大変ならセット、置き場所を分けたいなら単品が向きます。セットは道具がそろう反面、1か所にまとまるため、その場所に近づけないと使えません。単品で寝室と玄関に分けて置き、足りない物をセットで補う、という組み合わせもできます。まずは町会やマンションに共用の資機材があるかを確かめてから考えるのもおすすめです。
力に自信のない家族や高齢の家族でも使えますか
道具を選べば扱える場面は増えます。バールは軽めの60cm前後やパイプ製の軽量タイプ、ジャッキは小さな力で上げられる油圧式が候補です。ただし、救出は一人で行わず、周囲に応援を求めて複数で行うのが基本です。総務省消防庁も、救出活動はできるだけ複数で協力して行うよう呼びかけています。
長く挟まれていた人は、すぐに引き出してよいですか
急に引き出さないよう注意が必要です。東京消防庁は、重い物に長時間挟まれたあと圧迫から解放されると命に関わる状態(クラッシュシンドローム)になることがあるとして、不用意に引きずり出したり、急に動かしたりしないよう呼びかけています。長時間圧迫されていた場合は、全身の症状が軽く見えても、暗赤色の尿が出る、腫れる、感覚がなくなるといったことがあれば、速やかに医師の診察を受けることが必要とされています。総務省消防庁も、救出後に容体が急変する場合があるため、医師等による適切な処置が必要だとしています。

まとめ|固定が先、工具は分けて置き、使い方を家族で共有する

阪神・淡路大震災では、閉じ込められた人の多くを家族や近所の人が助け、そのときにはバールやのこぎり、車のジャッキといった身近な道具が使われました。家庭の救出工具は、その「身近な道具」を迷わず手に取れるようにしておく備えです。

ただし、いちばん先にやるべきことは家具の固定と、ドアをふさがない配置です。そのうえで、ドアのこじ開けと、すき間づくりにはバール、持ち上げにはジャッキ、家具の一部を切るにはのこぎり、作業する人を守る革手袋とヘッドライト、と役割で選び、寝室・玄関・物置に分けて置きます。使うときは、二次倒壊のおそれがあれば近づかない、通報と応援要請を並行する、ジャッキは当て木をして上げた分だけ支える、ガスのにおいがしたら火花の出る作業をしない、の4点を守ってください。実際の判断は、消防など公的機関の最新の情報と指示を優先してください。

救出工具をそろえる前後のチェックリスト

  • 寝室の家具を固定し、倒れてもドアをふさがない配置にした
  • 寝室に、内側から出るための小型バール・ヘッドライト・革手袋・ホイッスルを置いた
  • 玄関に、長めのバール・ジャッキ・折りたたみのこぎり・ハンマー・手袋・角材をまとめた
  • ジャッキの定格荷重と最低位を確認し、差し込めるすき間の高さを把握した
  • 車載ジャッキの場所と取扱説明書の注意を確認した
  • 町会・マンションの防災倉庫にある資機材を確認した
  • 家族全員に置き場所を伝え、実物を手に取ってもらった
  • 二次倒壊・通報と応援要請・当て木と補強・ガスのにおいの4つの注意を家族で共有した
  • 長く挟まれていた人は急に引き出さず、医療につなぐことを確認した

下敷きそのものを防ぐ家具の固定グッズや、作業のときの手足の守り方は、次の記事もあわせてどうぞ。

あわせて読みたい

家具転倒防止グッズの選び方比較|賃貸でもできる固定強度と設置のしやすさで選ぶ

あわせて読みたい

防災スリッパ・避難用シューズと防災手袋の選び方比較|割れたガラスとがれきから手と足を守る

出典・参考

この記事をシェア

関連する記事

住まいの防災

家具転倒防止グッズの選び方比較|賃貸でもできる固定強度と設置のしやすさで選ぶ

家具の転倒防止グッズを、突っ張り棒(ポール式)・耐震マット(粘着ゲル)・L字金具(ネジ留め)・ストッパーや扉開放防止ラッチという代表的な4タイプで比較しました。固定強度・賃貸での可否(壁や天井を傷つけるか)・設置難易度・対象家具・価格帯の目安という軸で整理し、東京消防庁が示す「ポール式とストッパー式の併用でL字金具と同等の効果」という知見をもとに、どのタイプをどう組み合わせるかを考えます。特定の型番は断定せず「選び方の目安」をまとめます。