災害のあとの子どもの心のケア|出やすい反応と、家庭での寄り添い方

家庭の防災といえば、水や非常食、家具の固定、避難のルールといった「物と行動」の話が中心になりがちです。けれども、地震や大雨、長い停電を経験したあとに家族が向き合うことになるのは、案外「気持ち」のほうだったりします。揺れがおさまったあと急に甘えが強くなった、夜中に何度も起きるようになった、お腹が痛いと言い出した、地震ごっこを繰り返している。こうした様子に戸惑う保護者の方は少なくありません。
公的機関や専門機関の資料では、こうした変化の多くは、こわい体験をしたあとに子どもへ起こりうる自然な反応として説明されています。あらかじめ知っておけば、落ち着いて受けとめられます。この記事では、災害のあとに出やすい反応を年齢別に整理し、家庭でできる寄り添い方、専門機関に相談する目安と窓口までをまとめます。買いそろえる必要のない、知識としての備えです。
心のケアも「備え」のひとつ|平時に知っておく意味
防災の準備は、起きたあとに慌てないために平時にやっておくものです。心のケアも同じで、災害のあとに子どもへどんな変化が出やすいか、どう接するとよいかを知っておくこと自体が備えになります。
文部科学省は、災害や事件・事故で強い恐怖や衝撃を受けた場合、不安や不眠などのストレス症状が現れることが多く、こうした反応はだれでも起こり得るもので、時間の経過とともに薄らいでいくものだと説明しています。そのうえで、場合によっては長引き、生活に支障を来すこともあるため、日ごろから子どもの様子をよく見て早期発見に努め、適切な対応と支援を行うことが必要だとしています。
つまり心のケアは、「多くは自然におさまるが、見守りは必要」という位置づけです。心配しすぎず、見過ごしもしない。その中間をとるための知識が、この記事のテーマです。
メモ
災害等で強い恐怖や衝撃を受けた場合のストレス症状はだれでも起こり得ること、時間の経過とともに薄らいでいくものであることは、文部科学省「子どもの心のケアのために―災害や事件・事故発生時を中心に―」に示されています。
災害のあとに子どもへ出やすい反応|多くは自然な反応です
国立成育医療研究センターの資料では、子どもは大人と比べて、ストレスが体の不調や行動上の問題として現れやすい傾向があると説明されています。「気持ちがつらい」と言葉にする代わりに、お腹が痛くなったり、乱暴になったり、赤ちゃん返りをしたりする、ということです。
からだに出る反応
食欲がなくなる、あるいは食べすぎる。腹痛や頭痛、吐き気を訴える。眠れない、こわい夢を見る、夜中に何度も目が覚める。夜尿が始まったり増えたりする。かゆみなどの皮膚の症状が出る。以前は見られなかったチックが出たり、強くなったりする。こうした身体の症状は、とくに幼稚園から小学校低学年ごろまでの子どもに現れやすいとされています。
国立成育医療研究センターの保護者向け資料は、体の病気ではないのに不安やこわさから体の症状を訴える場合があるとしたうえで、体が楽になるようにさすったり、温めたり、汗をふいたりすること、「フーってしてごらん」と声をかけて一緒に静かに息を吐くことを勧めています。息を長く吐くと、自然に深く吸うことができるためです。
きもち・こころに出る反応
一人になるのを怖がる、親のそばから離れない、強い甘えが見られる。ささいな物音に驚く。理由がわからないのにイライラする、怒りっぽくなる。急に出来事のこわい場面を思い出す。逆に、その話題を避ける。「自分のせいでこうなった」と自分を責める。ぼんやりする、ささいなことで泣く、笑わなくなる、無表情になる。
自分を責める気持ちは、大人が思う以上によく見られます。とくに4歳から6歳ごろの子どもは想像力が豊かで、悲惨な出来事を自分のせいだと考えてしまうことがあるとされています。
行動・生活に出る反応
赤ちゃん返りをする、甘えが強くなる。落ち着きがなくなる、多動・多弁になる。反抗的になる、乱暴になる。きょうだいやペットにきつく当たる。友だちとうまく遊べなくなる。学校や園に行きたがらない。以前は楽しんでいた遊びに興味を示さない。何度も手を洗う。出来事に関連した遊びを繰り返す。現実にはないようなことを言い出す。
文部科学省の保護者向けリーフレットは、こうしたストレスサインが保護者にとっては「困った行動」に見えることがあると指摘し、対応に困る行動が続くときには「ストレスサインかもしれない」と考えてみることが大切だとしています。
ヒント
子どもは大人と比べてストレスが身体の不調や行動上の問題として現れやすいこと、体・こころ・行動に現れる反応は、国立成育医療研究センター「こころとからだのケア 〜こころが傷ついたときのために〜」の保護者向けページによります。このうち「チックが出る・強くなる」「夜尿が始まる、あるいは増える」「何度も手を洗う」「ささいな物音に驚く」「笑わなくなる、無表情になる」、およびストレスサインが保護者には「困った行動」に見えるという指摘は、文部科学省「子供の心のケアのために」(保護者用)に挙げられている項目です。4歳から6歳ごろの子どもが悲惨な出来事を自分のせいだと考えることがある点は、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのPFAリーフレットによります。
年齢別|出やすい反応と接し方
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの「子どものための心理的応急処置(子どものためのPFA)」の資料では、子どもは認知的にも情緒的にも発達の途中段階にあるため、大人とは異なった反応や行動、考えを示すとして、年齢のめやすごとに出やすい反応が整理されています。その内容を軸に、家庭での接し方を添えます。発達には個人差があるため、年齢は目安として読んでください。
0〜3歳ごろ
何が起きたのか理解できず、ただただ親や養育者にしがみついたり、離れなくなったりすることがあります。以前は怖がらなかったことを怖がる、睡眠や食事の行動が変わる、より幼い行動に戻る、といった様子も見られます。
この時期の接し方は、言葉よりもスキンシップと生活リズムです。授乳やおむつ、食事、入浴、就寝の時間をできるだけふだんに近づけることが、そのまま心のケアになります。トイレトレーニングが後戻りしても、しばらくは「そういう時期」と受けとめて、責めないでおきましょう。
4〜6歳ごろ
親や養育者の反応を見て、何が起きたのかを推測する時期です。想像力が豊かなため、悲惨な出来事を自分のせいだと考えたり、現実にないことを言い出したりすることがあるとされています。
この年齢には、子どもが理解できる言葉で、簡潔に事実を伝えることが助けになります。国立成育医療研究センターの資料は、気づかうあまり事実とは違うことを言ってしまうと子どもは余計に不安になるとして、保護者が正直な態度でいることが大切だとしています。「地震で電気が止まったけれど、今は直っているよ」「あなたのせいではないよ」と、短く、必要なら繰り返し伝えます。
7〜12歳ごろ
起きた出来事について、同じ言葉や方法で繰り返し話したり、遊びの中で表現したりすることがあります。いわゆる「震災ごっこ」「災害ごっこ」です。PFAの資料は、この遊びを無理に止めずに見守るという考え方を示しています。くわしくは次の章で取り上げます。
また、国立成育医療研究センターの資料は、学童期は気持ちをことばでうまく表現できないぶん、不安や恐怖心を行動の変化としてあらわすとしています。落ち着きがなくなった、勉強に集中できない、友だちとぶつかることが増えた、といった変化は気持ちのサインかもしれません。負担にならない範囲でお手伝いを頼み、できたことを認めるのも助けになります。ほめられ、役に立っているという気持ちは回復に役立つとされています。
13歳以上ごろ
自分の考えとは異なる他者の考えも理解するようになり、緊急時の深刻さを他者の視点からも理解できるようになります。強い責任感や罪悪感もこの年齢によく見られる感情で、自滅的な行動をとる、他者を避ける、攻撃的な行動が増す、現在や将来に大きな望みを持たなくなる、といった反応も見られるとされています。社会に適合するために、より仲間を頼るようになるのもこの時期の特徴です。なお、自滅的な行動については、国立成育医療研究センターの資料でも、思春期に自分を傷つけるような行動や無謀な行動が見られることがあると挙げられています。こうした様子があるときは、見守るだけにせず、あとで紹介する相談窓口へつないでください。
思春期の子には、根掘り葉掘り聞かない姿勢がとくに大切です。「何か話したいことがあったら、いつでも聞くからね」と伝えて、あとは待つ。友人と過ごす時間やスポーツなど、仲間とのつながりを保てる場を確保することも支えになります。自分を責める言い方をしたときには、「あなたが悪いのではないよ」とはっきり伝えてください。
メモ
年齢ごとに出やすい反応は、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「子どものための心理的応急処置」のリーフレット「危機的状況下で子どもが示す一般的な反応」に基づいています。事実を正直に伝えること、学童期は気持ちをことばでうまく表現できないぶん不安や恐怖心を行動の変化としてあらわすこと、思春期に自分を傷つけるような行動や無謀な行動が見られることがあること、役割を持つことが回復に役立つことは国立成育医療研究センターの資料、家庭と学校で様子が異なる点は文部科学省の保護者向けリーフレットによります。
家庭でできる寄り添い方の基本
具体的に何をすればよいのか。専門機関の資料に共通して書かれている内容を、家庭で実行できる形に整理しました。特別な技術は要りません。むしろ「いつもどおり」を意識的に守ることが中心です。
- 1
そばにいて、ふだんどおりに接する
できるだけ子どもを一人にせず、穏やかにそばに寄り添います。幼い子が不安そうなときは抱きしめるなど、スキンシップも助けになります。接し方は特別にせず、ふだんと変わらない声かけを基本にします。 - 2
生活のリズムを取り戻す
食事、入浴、睡眠の時間をできるだけふだんどおりにします。眠れないことで朝起きられなくなり、集中力が保てず落ち着きがなくなる、という悪循環が起きやすいためです。リズムを取り戻すことが、健康的な状態の回復につながるとされています。 - 3
話したいときに聴く。聞き出さない
子どもが話したいときにじっくり耳を傾け、気持ちを受けとめます。無理に聞き出す必要はありません。話したくなったらいつでも聞くと伝えておけば十分です(言い方の例は次の表にまとめました)。質問には、繰り返し、簡潔に答えます。 - 4
子どもがわかる言葉で、正直に伝える
状況や被害は、子どもが理解できる言葉で説明します。ただし、気持ちを根掘り葉掘り聞いたり、詳細に説明しすぎたりするのは逆効果とされています。事実と違うことを言うと、かえって不安が強くなります。 - 5
叱らない。失敗をねぎらう
不安な状態では、ふだんできていたことができなくなったり、興奮しすぎたりします。叱られると不安が増し、自分を悪い子だと思ってしまいます。「こぼれただけだから大丈夫だよ」「こわかったからイライラするね」といった、ねぎらいの言葉をかけましょう。 - 6
体を楽にする
体の症状を訴えるときは、さすったり、温めたり、汗をふいたりします。ゆっくり息を吐く呼吸法や、体の緊張をほぐす方法も役立つとされています。いやがらなければ、小さい子をあやすように体をトントンとたたくのもよい方法です。 - 7
災害の映像を繰り返し見せない
被災の映像を続けて何度も見ることは控えさせます。幼い子どもや不安の強い子どもにとっては、映像であっても見ること自体が体験になってしまい、こわさを重ねて経験しているような状態になる危険があるとされています。 - 8
興奮しすぎるイベントは避ける
たとえ楽しいことでも、不安を抱えた状態では自分でコントロールできず、はしゃぎすぎたり、無理に動き回ったあとに熱を出したりすることがあります。静かに過ごせる時間を大切にします。
これらの根っこにあるのは、文部科学省の保護者向けリーフレットが「大切なこと」として掲げている一文です。子どもが安心して、ほかの人とつながりを感じられるようになること。安心とつながり。この二つが土台だと考えると、迷ったときの判断がしやすくなります。
言葉かけのヒント|伝わりやすい言い方、気をつけたい言い方
同じ内容でも、言い方によって届き方は変わります。各資料の考え方をもとにした例です。あくまで目安であり、その子と家庭に合う言い方を選んでください。
| 場面 | 気をつけたい言い方 | 伝わりやすい言い方 |
|---|---|---|
| 甘えが強くなったとき | もうお兄ちゃんでしょ | そばにいるよ。今日は一緒に寝ようか |
| 泣いたり怒ったりが激しいとき | いつまで泣いているの | こわかったね。泣いてもいいよ |
| こぼす・失敗が増えたとき | どうしてできないの | こぼれただけだから大丈夫だよ |
| 自分を責めているとき | そんなこと考えなくていい | あなたのせいではないよ |
| 話したがらないとき | 何があったか話してごらん | 話したくなったら、いつでも聞くからね |
| 先の見通しを聞かれたとき | もう絶対に大丈夫だから | 今わかっているのはここまで。わかったらすぐ教えるね |
最後の行が意外と大切です。PFAの資料は、情報を伝えるときには自分が知っていることだけを伝え、思いつきや気休めを言わないこと、守ることができない約束は決してしないことが大切だとしています。「もう二度と地震は来ないよ」と言ってしまいたくなりますが、余震があればその約束は破れてしまいます。
ヒント
メモ
そばに寄り添う・理解できることばで説明する・叱らない・映像を繰り返し見せない・生活リズムを保つといった接し方は、国立成育医療研究センター こころの診療部「ご家族の皆様へ」に示されています。無理に聞き出さないこと、知っていることだけを伝え守れない約束をしないこと、目線を合わせて聴く姿勢は、同センター「こころとからだのケア」およびセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのPFAリーフレットによります。
「災害ごっこ」と絵|止めるべきか、見守るべきか
地震ごっこ、津波ごっこ、避難所ごっこ。災害のあと、子どもがこうした遊びを繰り返すのを見て、「やめさせたほうがいいのでは」と心配になる保護者は多いものです。実際、専門機関はどう説明しているのでしょうか。
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのPFA資料は、7歳から12歳ごろの子どもについて、起きた出来事を遊びの中で表現すること(例えば震災ごっこなど)があるとしたうえで、これらは子どもの自然なストレス対処方法の一つでもあるので、遊びを無理に止めずに見守り、良い結果に導けるよう接してくださいと述べています。
一方で、文部科学省の資料は、ASD(急性ストレス障害)やPTSD(外傷後ストレス障害)の場合、幼稚園から小学校低学年までは、典型的な再体験症状や回避症状ではなく、ストレスの引き金となった場面を再現するような遊びをしたり、恐怖感を訴えることなく興奮や混乱を示したりすることがある点に注意を要するとしています。つまり、再現するような遊び自体は年齢相応の表現でもある一方で、興奮や混乱が強いときには、見守るだけでよい状態とは限らないということです。国立成育医療研究センターの資料も、遊びやお絵かき、作文などによって自由に気持ちを表現させてあげることを勧め、それが出来事を心の中で整理する助けになると説明しています。子どもが災害の場面ばかり描くことも、多くの場合はその延長線上にあります。
注意
日本ユニセフ協会も、災害時の子どもの心のケアのポイントとして「日常」を取り戻すことを挙げ、遊びは子どもたちの大切な日常であると位置づけています。日本赤十字社が災害救護の場で子どもの遊び場の設置に取り組んでいるのも、同じ考え方に立つものです。遊びは気晴らしではなく、回復の一部だと考えると腑に落ちます。
震災ごっこなど遊びによる表現を無理に止めず見守るという考え方は、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのPFAリーフレットに明記されています。ASDやPTSDの場合に幼稚園から小学校低学年では典型的な症状ではなく場面を再現するような遊びや興奮・混乱として現れることがあり注意を要する点は文部科学省の資料、遊びや絵による表現が気持ちの整理を助ける点および混乱が強い場合の切り替えは国立成育医療研究センターの資料によります。子どもの遊び場の設置は、日本赤十字社の「こころのケア活動」の一つとして紹介されています。
避難生活や停電のあとに「日常」を守る工夫
避難所や親戚宅での生活、長い停電のあとは、生活のリズムそのものが崩れます。ここが、子どもの心のケアで最も差が出るところです。PFAの資料も、緊急下においてもできる限り子どもたちの日課や習慣を保ち、安心して遊んだり、学んだり、休息したり、家族や友達と過ごせる機会や場所をつくりましょうと呼びかけています。
避難生活で子どもの日常を守るためにできること
- 起床・食事・就寝の時間を、できる範囲でふだんに近づける
- 寝る前の絵本や歌など、これまでの習慣を一つだけでも続ける
- 小さくてもよいので、その子が安心して遊べる場所と時間を確保する
- 使い慣れたぬいぐるみ・タオル・小さなおもちゃを手元に置く
- 災害の映像やニュースを流しっぱなしにしない
- 片づけの手伝いなど、負担にならない役割を任せて認める
- きょうだいで反応が違っても比べない。一人ずつと過ごす時間を少しつくる
避難所での過ごし方の基本は、別の記事でくわしくまとめています。眠る場所の環境や衛生、体調管理とあわせて読むと、家族単位の段取りが立てやすくなります。
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停電のあとも同じです。暗さと静けさが続くと、子どもは不安を感じやすくなります。ランタンを一つ子どもの手の届くところに置くだけでも安心材料になりますし、明かりのもとでカードゲームをする時間は、そのまま「日常」の回復になります。
もう一つ、見落とされがちなのが情報環境です。大人がスマートフォンで被害の映像を繰り返し見ていると、そばにいる子どもも同じものを見ています。乳幼児は言葉での理解ができないぶん、映像が伝える事実を十分に把握できないまま、こわさだけを受け取ってしまうと指摘されています。情報収集は必要ですが、時間と場所を区切るのが現実的です。
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緊急下でも日課や習慣を保ち、遊び・学び・休息・家族や友達と過ごす機会をつくることは、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのPFAリーフレットに示されています。乳幼児が映像から事実を十分に把握できない点は、日本ユニセフ協会「災害時の子どもの心のケア」の記載を参照しています。
きょうだいと保護者自身のケア
子どもの心のケアの話をするとき、必ずセットで語られるのが周りの大人のケアです。文部科学省の資料は、子どもの心の回復には子どもが安心できる環境が不可欠であり、それには周りの大人の心の安定が大切だとしたうえで、教職員自身のメンタルヘルスへの配慮が子どもの心のケアにおいても重要であり、保護者においても同様だと明記しています。
災害のあと、保護者は家の片づけ、罹災証明の申請、仕事の調整と、目の前の課題に追われます。そこへ子どもの変化が重なると、「自分の対応が悪いのでは」と自分を責めてしまいがちです。文部科学省の保護者向けリーフレットは、保護者が自分自身を責め過ぎないようにしましょうと呼びかけ、これまで頑張ってきたことを振り返り、その努力をきちんと自己認識することを勧めています。自分自身を肯定することは、保護者のセルフケアに役立つだけでなく、子どもにとっても良いモデルになるとされています。
きょうだいにも目を向けたいところです。はっきり反応が出た子に大人の関心が集まると、「大丈夫そうに見える子」が我慢を重ねてしまうことがあります。一人ずつと短い時間でも向き合う機会をつくると、こぼれ落ちにくくなります。
保護者自身のためのセルフケア
- 睡眠と食事を後回しにしない。短時間でも横になる時間をつくる
- できたことを数える。片づけも手続きも、進んだ分を自分で認める
- 一人で抱え込まず、家族・友人・学校の先生など信頼できる人に話す
- 災害の情報に触れる時間を区切る。寝る前は見ない
- 気持ちの落ち込みが続くときは、保健所や精神保健福祉センターの電話相談・面接相談を利用する
- 支援する側に回っている人も休む。交代できる体制を家族や地域で話しておく
文部科学省のリーフレットは、子どもの様子を心配するあまり不安になり過ぎたり、気持ちが沈む状態になってしまうことがあるとして、そのような場合には地域の精神保健福祉センターや保健所の電話相談、面接相談を利用しましょうと案内しています。病院に行く前に気軽に相談できる場所がある、という点は覚えておきたい情報です。また、避難所の運営や地域の支援に関わる方も、支援する側であると同時に被災した当事者です。日本赤十字社も、こころのケアの対象を避難所の利用者だけでなく、自宅にとどまる方や支援者まで含めた広い範囲としています。支える人が倒れないよう、交代できる体制を想定しておきましょう。
周りの大人の心の安定が子どもの心の回復に不可欠であることは文部科学省「子どもの心のケアのために」、保護者が自分を責め過ぎないこと・精神保健福祉センターや保健所の相談を利用できることは文部科学省「子供の心のケアのために」(保護者用)に示されています。支援者を含む幅広い対象へのこころのケアは、日本赤十字社の「こころのケア活動」の説明によります。
相談する目安と、頼れる窓口
多くの反応は時間の経過とともにおさまっていくとされていますが、そうでない場合もあります。国立成育医療研究センターの資料は、こうした反応が長く続き、学校生活や家庭生活に支障が出る場合、専門的な治療が必要となるとしています。
専門機関への相談を考えたい状態の例
- 十分に睡眠がとれない状態が続く
- 不安や恐怖感が強い
- 落ち着きのなさや注意集中の困難が強い
- 気持ちの落ち込みやつらい症状が続く
- 学校に行けない状態やひきこもりの状態が続く
- 暴力や物を壊すような行動がひどい
- 自分を傷つける行動や、死にたいという言葉が見られる
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのPFA資料も、専門的な支援が必要となる子どもの例として、依然として強いストレスを抱えている、人格や行動に大きな変化が起きそれが継続している、日常生活に支障をきたしている、自分自身や他者を傷つけるリスクがある、といった状態を挙げ、少し気になるなと思った子どもは自分だけで対応せず、専門家へつなぐことが大切だとしています。
注意
どこに相談すればよいか
まず身近なところから、と考えると動きやすくなります。学校であれば、学級担任に限らず、保健室の先生(養護教諭)、教育相談担当の先生、学年主任、校長など、相談しやすい先生でかまいません。来校しているスクールカウンセラーを利用することもできます。園なら担任や園長、地域では保健センター・保健所の健康相談や子育て相談が窓口になります。
受診をためらう気持ちがあるときは、いきなり精神科や心療内科でなくてもかまいません。文部科学省の資料は、まず学校医やかかりつけの小児科、内科の先生に相談して、必要に応じて紹介を受けるという方法もあると案内しています。
電話で相談できる全国共通の窓口もあります。いずれも公式ページで案内されている内容です。
| 窓口(案内元) | 電話番号 | 受付など |
|---|---|---|
| 24時間子供SOSダイヤル(文部科学省) | 0120-0-78310 | 24時間受付・年中無休。通話無料。いじめやその他の子供のSOS全般 |
| 児童相談所相談専用ダイヤル(こども家庭庁) | 0120-189-783 | フリーダイヤル(通話料無料)。お近くの児童相談所につながる。虐待以外も含め、子どもの福祉に関するさまざまな相談 |
| 児童相談所虐待対応ダイヤル(こども家庭庁) | 189 | 通話料無料。虐待かもと思ったときの通告・相談。匿名も可 |
| 子どもの人権110番(法務省) | 0120-007-110 | 平日8時30分〜17時15分。土日祝・年末年始は休み |
| こころの健康相談統一ダイヤル(厚生労働省) | 0570-064-556 | ナビダイヤル(通話料は発信者の負担)。電話をかけた地域の公的な相談機関につながる。曜日・時間は都道府県・政令指定都市により異なる |
メモ
災害時には、自治体や保健所が臨時のこころの健康相談を設けることがあります。避難所に保健師や医療・保健スタッフが巡回している場合は、その場で相談できます。また、国立成育医療研究センターを中央拠点病院とする「子どもの心の診療ネットワーク事業」では、大きな災害の際に保護者向けの資料がまとめて公開されます。
相談の目安は国立成育医療研究センター「こころとからだのケア」およびセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのPFAリーフレット、学校や医療機関への相談方法は文部科学省「子供の心のケアのために」(保護者用)によります。電話番号と受付時間は、24時間子供SOSダイヤルが文部科学省「子供のSOSの相談窓口」「『24時間子供SOSダイヤル』について」、児童相談所の2つのダイヤルがこども家庭庁「児童相談所虐待対応ダイヤル『189』について」、子どもの人権110番が法務省「いじめなどの電話相談窓口【こどもの人権110番】」およびこども家庭庁の同ページ、こころの健康相談統一ダイヤルが厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」の記載によります。ナビダイヤルの通話料が発信者の負担であることは、提供元であるNTTドコモビジネス(NTTコミュニケーションズ)のサービスページに示されています(2026年8月時点)。
平時にできる準備|物ではない「備え」を家族で
最後に、今日からできることを整理します。心のケアの備えは買い足すものがほとんどないぶん後回しになりがちなので、防災グッズの点検日にセットで済ませてしまうのがおすすめです。
- 1
子どもの安心グッズを持ち出し袋に入れる
使い慣れたぬいぐるみ、タオル、小さな絵本やカードゲームなど、その子が安心できるものを一つ加えます。かさばらないものを選べば、リュックの負担になりません。 - 2
ふだんの習慣を書き出しておく
寝る前の絵本、決まった歌、好きな食べ物。避難先で「日常」を再現するための材料になります。祖父母や親戚に預ける可能性がある家庭では、共有しておくと役立ちます。 - 3
引き渡しと再会の段取りを決める
学校や園にいるときに被災した場合、いつ・だれが・どこで引き取るのかを決めておきます。再会が早いほど、子どもの不安は小さくなります。 - 4
災害の話を怖い話にしない
ふだんから防災を遊びや体験として扱っておくと、実際に起きたときの受けとめが変わります。ランタンで過ごす夜、非常食の試食、避難所までの散歩。楽しかった記憶は安心の土台になります。
「記念日反応」を知っておく
もう一つ、平時に知っておくと役に立つ知識があります。記念日反応(アニバーサリー反応)です。文部科学省の資料は、災害や事件・事故などが契機としてPTSDとなった場合、それが発生した月日になると、いったん治まっていた症状が再燃することがあり、アニバーサリー効果やアニバーサリー反応と呼ばれていると説明しています。この日付の効果は必ずしも年単位とは限らず、同じ日に月単位で起きることもあるとされています。
診断がついた場合に限らず、もう少し身近な形で起こることもあります。国立成育医療研究センターの資料は、こころの傷つきを体験すると、また同じ季節や時期がめぐってくると、再び体調や生活のリズムが崩れてしまうことがあるとし、似たようなできごとを経験したり見聞きしたりすることで具合が悪くなることもあると説明しています。そのうえで、これらの一時的な悪化はよく見られる現象であり、こんなときにはお子さんの負担をできるだけ軽くしてあげましょうとしています。
対応は難しくありません。文部科学省の資料は、その日が近づくと以前の症状が再び現れるかもしれないこと、その場合でも心配しなくてよいことを保護者や子どもに伝えることで、冷静に対応でき、混乱や不安感の増大を防ぐことができるとしています。知っておくこと自体が対応になる、ということです。防災訓練の前後や大きな地震のニュースが流れたときにも同じことが起こりえます。家庭の防災訓練は、子どもの様子を見ながら無理のない範囲で進めてください。
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災害のあと、子どもが赤ちゃん返りをしました。やめさせたほうがよいですか
地震ごっこを繰り返しています。止めるべきでしょうか
体は元気なのに、お腹が痛い・頭が痛いと言います
どのくらい様子を見てよいものですか
上の子は平気そうに見えます。何もしなくてよいですか
保護者である自分がつらいときは、どこに相談できますか
まとめ|知っておくことが、いちばん軽い備え
災害のあとに子どもへ現れる変化の多くは、こわい体験をしたあとにだれにでも起こりうる自然な反応とされています。赤ちゃん返りも、夜泣きも、腹痛も、災害ごっこも、その子が自分なりに立て直そうとしているサインであることが多いとされています。ただし腹痛や頭痛は体の病気が原因のこともあるので、痛みが強いときや続くときは、まずかかりつけの小児科で診てもらってください。家庭でできることは特別なことではありません。そばにいて、ふだんどおりに接し、生活のリズムを守り、話したいときに聴く。この四つが基本で、あとは長い目で見守るだけです。
そして、子どもの安心は周りの大人の安定に支えられています。保護者自身が休み、頼り、自分を責めすぎないことも、立派な心のケアです。反応が長く続き、生活に支障が出るときは、学校や園、保健センター、かかりつけの小児科、電話相談の窓口へ早めにつないでください。今日は、持ち出し袋にその子の安心グッズを一つ入れて、相談先の番号を連絡メモに書き足すところから始めてみてください。
今日からの一歩
- 子どもが安心できるもの(ぬいぐるみ・タオル・小さな絵本など)を持ち出し袋に一つ入れる
- 寝る前の習慣など、その子の「ふだん」を家族で書き出しておく
- 学校・園からの引き渡しの段取りを家族で確認する
- かかりつけの小児科・保健センター・電話相談の番号を連絡メモに書き足す
- 災害の映像を家の中で流しっぱなしにしない習慣を決めておく
- この記事を家族で共有し、こわい体験のあとに出る反応を知っておく
なお、この記事は保護者向けに公開されている公的機関・専門機関の資料を整理したものです。実際の判断は、学校・園や自治体、医療機関など専門の窓口の案内と、公的機関の最新情報を優先してください。
出典・参考
- 「子供の心のケアのために」(保護者用)/文部科学省
- 子どもの心のケアのために―災害や事件・事故発生時を中心に―(第1章 災害や事件・事故発生時における子どもの心のケア)/文部科学省
- 災害とこどもの心(子どもの心のケアに関する資料)/国立成育医療研究センター こどもの心の診療ネットワーク事業
- ご家族の皆様へ 〜災害後の子どもたちの心を守るために〜/国立成育医療研究センター こころの診療部
- こころとからだのケア 〜こころが傷ついたときのために〜/国立成育医療研究センター こどもの心の診療ネットワーク事業
- 子どものための心理的応急処置(子どものためのPFA)/セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
- 危機的状況下で子どもが示す一般的な反応(子どものためのPFAリーフレット)/セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
- 災害時の子どもの心のケア:一番身近なおとなにしか出来ないこと/日本ユニセフ協会
- こころの健康相談統一ダイヤル/厚生労働省
- 児童相談所虐待対応ダイヤル「189」について/こども家庭庁
- 子供のSOSの相談窓口/文部科学省
- 「24時間子供SOSダイヤル」について/文部科学省
- いじめなどの電話相談窓口【こどもの人権110番】/法務省
- ナビダイヤル(0570)サービス概要/NTTドコモビジネス(NTTコミュニケーションズ)
- 国内災害救護まるわかり辞典「こころのケア活動」/日本赤十字社
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自宅が危険なときに身を寄せる避難所。受付での伝え方や共同生活のルール、就寝スペースとプライバシー、手洗いなどの衛生、エコノミークラス症候群の予防や暑さ寒さ対策、要配慮者への目配りまで、安全・健康に過ごす基本を公的機関の目安で整理しました。
災害時、学校・保育園の子どもをどう引き取る|引き渡しルールの確認と共働き家庭の備え
大きな地震が起きたとき、学校や保育園にいる子どもをどう引き取るか。文部科学省の手引きや保育所保育指針で示された「引き渡しと待機」の考え方をもとに、入学・入園時に確認しておく項目、代理人の決め方、連絡が取れないときの取り決めを整理しました。


