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個別避難計画の作り方|ひとりで避難が難しい家族のために、家族の側から動かす手順

シュン家族・ペット防災担当
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個別避難計画の作り方|ひとりで避難が難しい家族のために、家族の側から動かす手順

「もし大雨で避難指示が出たら、父はひとりで避難できるだろうか」。膝が悪くて階段が使えない、認知症が進んで判断が難しい、電動の医療機器を使っている。家族にそうした事情があると、一般的な避難の手順書はそのままでは使えません。そこで用意されているのが、災害対策基本法にもとづく「個別避難計画」です。名前は行政の制度ですが、中身は「その人が、いつ、誰と、どうやって、どこへ逃げるか」を1枚に書いたもの。この記事では、制度のしくみをおさえたうえで、家族の側から何をどう動かせばよいかを整理します。

個別避難計画とは|「誰が、どこへ、どうやって」を一人ごとに決めておく

災害対策基本法には、災害時に自ら避難することが困難で、円滑かつ迅速な避難の確保のために特に支援を要する人を「避難行動要支援者」と位置づける規定があります。市町村長はその人たちを把握し、名簿(避難行動要支援者名簿)を作らなければならない、というのが第49条の10です。そして、その名簿に載っている人ごとに、避難支援等を実施するための計画を作るよう努めなければならない、と定めているのが第49条の14。この計画が個別避難計画です。

2つのしくみは、できた時期も、市町村にとっての重さも違います。

しくみ根拠市町村にとっての位置づけできた背景
避難行動要支援者名簿災害対策基本法 第49条の10義務(作成しておかなければならない)東日本大震災の教訓を踏まえた平成25年の法改正
個別避難計画災害対策基本法 第49条の14努力義務(作成するよう努めなければならない)令和元年台風第19号等での高齢者・障害者の被害を踏まえた令和3年の法改正

名簿と個別避難計画の位置づけは、内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」および災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第49条の10・第49条の14によります。個別避難計画を努力義務としたのは、令和3年5月10日公布・同年5月20日施行の「災害対策基本法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第30号)です。

名簿は「誰が支援を必要としているか」のリストです。氏名、生年月日、性別、住所または居所、電話番号その他の連絡先、避難支援等を必要とする事由といった項目が記載されます。ただし、リストがあるだけでは、当日に誰がその人の家へ向かうのかは決まりません。そこを一人ずつ決めておくのが個別避難計画で、法律では名簿の記載事項のうち氏名から避難支援等を必要とする事由まで(第49条の10第2項第1号から第6号まで)に加えて、次の内容を記載または記録するものとされています。

  • 避難支援等実施者(実際にその人の避難支援を行う人)の氏名または名称、住所または居所、電話番号その他の連絡先
  • 避難施設その他の避難場所、避難路その他の避難経路に関する事項
  • そのほか、避難支援等の実施に関して市町村長が必要と認める事項

メモ

計画に書く「避難支援等実施者」は、個人でなくても構いません。内閣府の資料では、自治会や自主防災組織などの組織・団体を記載することも可能とされています。「近所の誰か一人に責任を負わせる」だけが選択肢ではない、と知っておくと相談しやすくなります。

作るのは市町村。それでも家族から動いたほうがよい理由

作成主体は市町村です。ですから制度上は、家族が申請しなければ何も始まらない、というものではありません。ただ、現実の進み具合を見ると、「順番が回ってくるのを待つ」だけでは時間がかかる可能性があります。

内閣府と消防庁は毎年、全国1,741市町村の取組状況を調査して公表しています。令和8年6月29日に公表された最新の結果(令和8年4月1日現在)は、次のような状況です。

  • 避難行動要支援者名簿は、全1,741団体で作成済み(100%)
  • 個別避難計画を1件も作成していない団体は解消された。一方で、作成率が1%以下の団体が217団体(12.5%)
  • 作成率が2割以下の団体が911団体(52.3%)と、過半数を占める
  • 調査基準日時点で個別避難計画が作成されている避難行動要支援者は1,014,017人。名簿掲載者6,696,718人に対する全国の作成率は15.1%

これらの数値は、内閣府・消防庁「避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成等に係る取組状況の調査結果」(令和8年6月29日公表、調査基準日は令和8年4月1日、調査対象は市町村1,741団体)によります。作成率は、各市町村で計画が作成された避難行動要支援者の人数を、名簿に係る避難行動要支援者の人数で割ったものです。

数字だけを見ると心細く感じるかもしれませんが、前年より2割超のすべての階級で団体数が増えており、取組は進んでいます。内閣府の取組指針も、市町村の限られた体制の中でできるだけ早く作られるよう、優先度が高い人から作ることが適当だとし、優先度が高いと市町村が判断した人については、令和3年改正法の施行後からおおむね5年程度で取り組んでほしい、という考え方を示しています。

優先度の考え方と「おおむね5年程度」の目安は、内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(令和3年5月改定、令和7年6月更新)に記載されています。これは市町村に向けた目安であり、個々の家庭に対する期限ではありません。

つまり、市町村は優先度の高い人から順に進めています。優先度の判断で考慮されるポイントとして、取組指針は次の3つを挙げています。

  1. 1

    地域におけるハザードの状況

    洪水・津波・土砂災害等の危険度の想定。浸水想定区域、津波災害特別警戒区域、土砂災害特別警戒区域などが例に挙げられています。
  2. 2

    本人の心身の状況、情報取得や判断への支援が必要な程度

    重度の要介護や障害がある人、人工呼吸器を使用している人など、自力での判断や避難が難しい場合。
  3. 3

    独居等の居住実態、社会的孤立の状況

    そばに避難を支援する人がいない状況かどうか。

裏を返すと、ハザードエリアの外に住んでいる、同居家族がいる、といった場合は順番が後ろになりやすいということです。それは危険がないという意味ではなく、行政の順番づけの話です。だからこそ、家族の側から「うちはこういう事情があります」と伝えておく意味があります。

母の住む市のサイトを見たら、個別避難計画のページはあるのに「対象の方には市からご案内します」としか書いていませんでした。福祉の窓口に電話したら、ケアマネジャー経由で相談できると教えてもらえて、次の訪問のときに話す約束をしました。待っていたら分からないままでした。
離れて暮らす親のことが気になる読者

わが家は対象になる?|まず自治体の基準を調べる

誰を名簿に載せるかは、法律が一律に決めているわけではありません。市町村が地域防災計画で定めます。実際の運用も自治体ごとに幅があります。

令和8年の調査では、名簿に掲載する者の範囲として、次の区分をどれだけの市町村が採用しているかが集計されています。

名簿に掲載する者の区分採用している市町村の割合
要介護認定を受けている者98.9%
身体障害者99.3%
知的障害者98.0%
精神障害者93.5%
難病患者等67.8%
自治会、市区町村長等が支援の必要を認めた者71.1%
自ら記載または記録を希望した者67.8%
その他68.5%

内閣府・消防庁「避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成等に係る取組状況の調査結果」(令和8年4月1日現在)の都道府県別集計より、全国合計の割合です。分母は名簿作成済みの1,741団体。要介護度や障害等級などの具体的な要件は市町村ごとに異なります。

注目したいのは、下の3行です。「自治会等が支援の必要を認めた者」「自ら記載または記録を希望した者」という枠を設けている市町村が、7割近くあります。取組指針は、要介護状態区分や障害支援区分といった要件だけでは把握できない場合があることを踏まえ、要件以外の仕組みを通じても把握するよう求めており、その例として、形式要件から漏れた人が自ら名簿への掲載を求めることができる仕組み(いわゆる手上げ)を挙げています。要件の表を見て「うちは当てはまらないかも」と諦める前に、窓口で相談する価値があるということです。

調べ方の手順は次のとおりです。

  1. 1

    自治体のサイトで「個別避難計画」を検索する

    市区町村名とあわせて検索すると、防災担当課か福祉担当課のページが見つかります。「避難行動要支援者名簿」でも探してみてください。対象者の要件、申請書や様式、問い合わせ先が載っていることが多いです。
  2. 2

    対象者の要件と、作成の進め方を確認する

    誰を対象にしているか、市町村から案内が届く方式か、本人・家族が申し出る方式かを見ます。ここが自治体で大きく違います。
  3. 3

    ハザードマップでわが家の災害リスクを確認する

    洪水・土砂災害・津波・高潮のどれに当たるかで、避難先も避難のタイミングも変わります。相談の前に見ておくと話が早く進みます。
  4. 4

    窓口かケアマネジャーに相談する

    介護保険や障害福祉のサービスを使っているなら、担当のケアマネジャーや相談支援専門員がいちばん近い相談先です。サービスを使っていない場合は、市区町村の防災担当課・福祉担当課、地域包括支援センターへ。

ハザードマップの見方から確認する

ハザードマップの見方と家族の避難計画|「いつ・どこへ・どうやって」を決める

自治体による違いは、実際のページを見ると分かりやすいです。たとえば神戸市は、優先的に作成する対象として重症心身障害児者、24時間人工呼吸器を装着している人、ハザードエリアに居住している要介護5の人を示し、市からの案内を受けて本人等が担当のケアマネジャーに相談し、本人等とケアマネジャーが計画を作成する流れを説明しています。横浜市は、ハザードマップ上の洪水浸水想定区域や即時避難指示対象区域にお住まいの方を対象とし、ケアマネジャーや計画相談員、家族等と協働で作成することを想定しています。西宮市は、様式をダウンロードして本人・家族が作成し、市の防災危機管理課に郵送・来庁・スマート申請(電子申請)で提出する方式を案内しています。

注意

ここに挙げたのは、進め方が自治体で異なることを示すための例です。要件も様式も窓口も自治体ごとに変わりますし、内容は見直されます。実際の手続きは、必ずお住まいの市区町村の最新の案内でご確認ください。

計画に何を書くのか|家族が先に整理しておける項目

様式は自治体ごとに違いますが、書く中身は法律で決まった項目が土台になります。内閣府が示している様式例では、本人の基本情報、避難場所、緊急時の連絡先、避難支援等実施者の情報が表面に、避難時に配慮しなければならない事項や特記事項が裏面に置かれています。

家族が先に整理しておけるのは、次のような内容です。相談の場に持って行くと、話がぐっと具体的になります。

相談の前に家族で書き出しておきたいこと

  • 本人の氏名・生年月日・住所・連絡先と、同居家族の有無
  • 避難支援等を必要とする事由(要介護状態区分、障害名と等級、難病の医療費支給認定、医療機器の使用など)
  • 立つ・歩く・階段の上り下りがどこまでできるか。車いすや杖を使うか
  • 音が聞こえにくい、見えにくい、言葉の理解が難しいなど、情報の伝わり方の特徴
  • 毎日必要な薬、医療機器と電源の要否、予備のバッテリーの持ち時間
  • 候補になる避難先(指定福祉避難所、一般の避難所の福祉避難スペース、親戚・知人宅、自宅にとどまる屋内安全確保など)
  • 自宅から避難先までの経路。段差・坂・階段・スロープの有無と、かかる時間
  • 移動の手段。誰の車か、車いすで乗れるか、荷物は誰が持つか
  • 声をかけてくれる可能性のある人(近所、親族、自治会、民生委員など)の名前と連絡先
  • 本人がどうしたいか。避難したくない理由があるならその中身

避難経路の書き方は、身構えなくて大丈夫です。内閣府の資料は、経路上の段差やスロープなど本人や避難支援等実施者が必要とする情報が盛り込まれていれば文字だけでも問題なく、地図の貼り付けや線図・絵を描くことは必須ではないとしています。「自宅から○○通りを通って、向かいの公民館2階の休憩室へ」という一文でも計画になります。

記載事項と避難経路の書き方の考え方は、内閣府(防災担当)「個別避難計画の作成に取り組むみなさまへ【追補版】」および「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」の様式例によります。実際の様式と記入方法は市町村が定めます。

避難先については、指定福祉避難所という選択肢も知っておきたいところです。令和3年5月に改定された内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」では、個別避難計画により指定福祉避難所へ避難することになっている場合は、最寄りの一般の避難所等ではなく指定福祉避難所へ直接避難することとされ、直接の避難を促進することが適当だと整理されています。あわせて、指定福祉避難所を指定するときに受入対象者を特定して公示できる制度も設けられました。また取組指針は、移動により心身の状態の悪化を招く場合や特別な設備が必要な場合など、福祉避難所等への直接の避難が必要なときは、個別避難計画の作成過程で事前に避難先と調整し、具体的な手順を定めておくことが適当だとしています。

指定福祉避難所への直接の避難と受入対象者の公示制度は、内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」(平成28年4月、令和3年5月改定)および令和3年5月の災害対策基本法施行規則の改正によります。事前調整の考え方は、内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」によります。

ヒント

「うちの親は福祉避難所に行けますか」という質問には、自治体ごとの答えがあります。指定福祉避難所は受入対象者を絞って指定されていることがあり、誰でも直接行ける場所とは限りません。個別避難計画の相談の場で、避難先の候補として名前を出して確認してみてください。

避難先の選択肢を広げる

避難先は避難所だけじゃない|分散避難・縁故避難の決め方と、親戚・知人宅に頼るときの準備

家族の側からどう動かすか|相談の切り出し方

制度の説明よりも、実際に何を言えばよいかのほうが悩ましいかもしれません。次の順で進めると、無理なく話が進みます。なお内閣府は、自ら避難することが困難な方に向けたリーフレット「災害時に備えて今できること」を公開しています。本人に制度を説明するときの材料として、目を通しておくと言葉にしやすくなります。

  1. 1

    担当のケアマネジャー・相談支援専門員に一言伝える

    介護保険や障害福祉のサービスを使っているなら、ここが最短ルートです。「災害のときのことが心配で、個別避難計画を作れないか市に相談したい」と伝えます。毎月のモニタリングやサービス担当者会議の場を使って話が進むことがあります。
  2. 2

    サービスを使っていなければ、市区町村の窓口へ

    防災担当課、福祉担当課、地域包括支援センターのいずれかです。「避難行動要支援者名簿に登録できるか」「個別避難計画を作れるか」の2点を聞くと、担当がはっきりします。
  3. 3

    本人の意思を確認する

    計画は本人の同意が前提です。「名前と病気のことを地域の人に知らせてよいか」は、本人にとって重い判断になり得ます。家族が代わりに決めるのではなく、何が共有されて何のために使われるのかを一緒に確認してください。
  4. 4

    支援してくれる可能性のある人に、事前に打診しておく

    避難支援等実施者は市町村が勝手に決められるものではなく、打診と了解が必要です。親族、近所の人、自治会や自主防災組織など、心当たりを家族の側から挙げられると調整が早まります。
  5. 5

    できあがったら、一度歩いてみる

    計画は作って終わりではありません。玄関先まで出てみる、避難先まで実際に移動してみる、避難先の中で過ごしてみる。内閣府も、計画の内容に沿った避難訓練で実効性の確保と内容の改善に取り組むことを勧めています。

支援してくれる人との関係づくり

ご近所・地域との共助の始め方|つきあいが薄くてもできる、災害時の助け合いの備え

なお、市町村が支援して作る計画のほかに、本人や家族、自主防災組織などが記入する「本人・地域記入の個別避難計画」という進め方もあります。取組指針は、市町村が優先的に支援する計画づくりと並行してこの方式も進めることが適当とし、本人・地域記入の計画も必要な内容の計画とすることができ、どちらが優れているというものではないと明記しています。順番を待たずに家族が下書きを作っておく、という動き方に制度上の裏付けがあるということです。

「本人・地域記入の個別避難計画」の位置づけは、内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(令和3年5月改定、令和7年6月更新)によります。ただし、どの方式を採るかは市町村が定めるため、まずお住まいの自治体の案内をご確認ください。

離れて暮らす親の場合|確認する先は「親の住む自治体」

親と離れて暮らしている場合、確認先は自分の住む自治体ではなく、親が住んでいる市町村です。制度も要件も窓口も、そちらの基準で動きます。

  1. 1

    親の住む市区町村のサイトを、自分で開いてみる

    「◯◯市 個別避難計画」で検索します。電話番号を控えて、親と一緒に電話できる日を決めておくと進みます。
  2. 2

    帰省のタイミングに合わせて予定を組む

    窓口相談やケアマネジャーとの面談は平日が中心です。帰省の日程が決まったら、先に電話でアポイントを取っておくと1回の帰省で話が進みます。
  3. 3

    帰省時に、避難先まで一緒に歩いてみる

    地図上の距離と、実際に歩ける距離は違います。段差、坂、夜の暗さ、途中に休める場所があるか。ここで気づいたことが、そのまま計画の「避難経路」の中身になります。
  4. 4

    地域とのつながりを一つでも作っておく

    民生委員、自治会、近所の人、ケアマネジャー。誰か一人でも顔と連絡先が分かっていると、災害時だけでなく日常の異変にも気づいてもらいやすくなります。帰省時に挨拶をしておくだけでも違います。
  5. 5

    連絡手段と、避難したことの伝え方を決めておく

    災害時は電話がつながりにくくなります。災害用伝言ダイヤルの使い方を一緒に練習し、「避難したらここに一報を入れる」というルールを決めておきます。

シニアと暮らす家庭の備え全般

シニアと暮らす家庭の防災|薬・避難・家の安全、離れて暮らす親のためにできること

親が「うちは大丈夫」と言うことも珍しくありません。そのときは制度の説明から入るより、ハザードマップを一緒に開いて「この色のところ、家の場所だね」と確認するところから始めるほうが、話が通じやすいことがあります。避難する・しないの結論を急がず、事実を一緒に見る時間を作ってみてください。

「名簿に載れば助けが来る」ではない、を正しく受け止める

この制度でいちばん誤解されやすいのが、ここです。名簿に登録され、計画ができれば、当日は必ず誰かが迎えに来てくれる。そう受け取ってしまうと、かえって危うくなります。

内閣府が示している同意書の様式例には、次の趣旨がはっきり書かれています。同意することで避難支援を受けられる可能性は高まるが、避難支援等実施者自身やその家族などの安全が前提であるため、同意によって災害時の避難行動の支援が必ずなされることを保証するものではなく、避難支援等実施者などの関係者は法的な責任や義務を負うものではない、というものです。取組指針も、個別避難計画はよりよい避難を実現しようという趣旨のもので、市町村や関係者に対して計画に基づく避難支援等の結果について法的な責任や義務を負わせるものではないとしています。

この考え方は、内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」の本文および同意を得るための様式例に記載されています。

支援する側の人も、同じ災害の中にいます。夜中に川が近い地域で、支援者が自分の家族を置いて動けないことは十分にあり得ます。だからこの制度は「助けが来るまで待つための約束」ではなく、「支援を受けられる可能性を上げるしくみ」だと理解しておくのが正確です。

そのうえで、家庭側で補える部分があります。

  • 早めに動く。警戒レベル3「高齢者等避難」は、高齢者や避難に支援が必要な人が避難を始める段階です。準備と移動に時間がかかるほど、この段階で動く意味が大きくなります
  • 避難先を複数持っておく。指定避難所だけでなく、親戚・知人宅への縁故避難、ホテルや旅館、安全が確認できる場合の在宅避難も選択肢です
  • 避難しなくて済む条件を作る。自宅がハザードエリアの外で、建物が安全で、備蓄があるなら、屋内安全確保という判断もあります

警戒レベル3「高齢者等避難」の位置づけは、内閣府(防災担当)「避難情報に関するガイドライン」(令和8年3月改定)によります。実際の避難の判断は、お住まいの市町村が発令する避難情報と、自宅の災害リスクにもとづいて行ってください。

個人情報の扱いは、自治体で確認する

もう一つ、家族から質問が出やすいのが個人情報です。「病名まで近所に知られるのでは」という不安は自然なものです。

法律上の枠組みは、平常時と災害時で分かれています。平常時に個別避難計画の情報を避難支援等関係者へ提供する場合、市町村の条例に特別の定めがある場合を除き、本人と避難支援等実施者の同意が得られなければ提供されません。一方、災害が発生し、または発生するおそれがある場合に、本人の生命または身体を守るために特に必要があると認めるときは、同意を得なくても提供できるとされています。名簿情報についても同様の考え方が取られています。

平常時と災害時の情報提供の考え方は、災害対策基本法第49条の11および第49条の15によります。条例による特別の定めの有無や、提供先の範囲は市町村ごとに異なるため、具体的な取り扱いはお住まいの自治体にご確認ください。

実際に、令和8年4月1日現在で、平常時から名簿の全部または一部を避難支援等関係者へ提供している市町村は1,642団体(94.3%)ありますが、名簿掲載者6,696,718人のうち平常時から情報が提供されている人は2,673,119人(39.9%)にとどまります。提供先として地域防災計画に定められているのは、民生委員が1,669団体と最も多く、消防本部・消防署等、都道府県警察、自主防災組織、社会福祉協議会が続きます。

これらの数値も、内閣府・消防庁「避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成等に係る取組状況の調査結果」(令和8年4月1日現在)によります。

同意しないという選択もできますし、内閣府の様式例には「趣旨を十分理解した上で、同意しません」「同意するかを判断するために、市町村からの詳細な説明を求めます」という選択肢も用意されています。迷ったら、まず説明を求めてよいということです。家族が先に決めてしまわず、本人が納得したうえで選ぶことを大切にしてください。

作ったあとに続くこと

体の状態も、住まいの状況も、支援してくれる人の事情も変わります。取組指針は、計画は作ったら終わりではなく実効性を確保する取組が継続的に必要だとし、心身の状況等の変化を踏まえた更新を念頭に置くよう促しています。

家庭側でできるのは、年に1回、決まった時期に見直すことです。介護保険の更新のタイミング、誕生日、防災の日。何かの行事にひもづけておくと忘れにくくなります。見直すのは、連絡先が変わっていないか、支援してくれる人が今も引き受けられる状況か、薬や医療機器の内容が変わっていないか、避難先が変わっていないか。この4点だけでも十分です。

年に1回の見直しチェック

  • 本人・家族の連絡先に変更はないか
  • 避難支援等実施者として書いた人が、今も引き受けられる状況か
  • 薬・医療機器・補助具の内容が変わっていないか
  • 避難先と避難経路は今も現実的か(工事や施設の閉鎖はないか)
  • ハザードマップが更新されていないか
  • 計画の写しを、本人・家族・支援者がそれぞれ持っているか
  • 非常用持ち出し袋に、お薬手帳の写しと計画の写しを入れてあるか

薬とお薬手帳の備え

持病の薬を災害で切らさない備え|お薬手帳・備蓄日数・災害時の特例をやさしく整理

よくある質問

個別避難計画は家族が申請すれば必ず作ってもらえますか
必ず作ってもらえるとは言えません。個別避難計画の作成は市町村の努力義務であり、市町村は限られた体制の中で優先度の高い方から作成を進めています。内閣府の取組指針では、地域のハザードの状況、本人の心身の状況や情報取得・判断への支援が必要な程度、独居等の居住実態や社会的孤立の状況の3点を優先度の考慮ポイントとしています。ただし、多くの自治体が『自ら希望した者』や『支援の必要を認めた者』を名簿の対象に含めているため、まずは相談してみる価値があります。実際の取り扱いはお住まいの市区町村にご確認ください。
介護サービスを使っていない親でも対象になりますか
自治体によります。名簿に掲載する者の範囲は市町村が地域防災計画で定めるもので、要介護認定や障害者手帳などの形式要件が中心ですが、内閣府の取組指針は、要件だけでは把握できない場合があることを踏まえて要件以外の仕組みを通じても把握するよう求めており、その例として、形式要件から漏れた方が自ら名簿への掲載を求めることができる仕組み(いわゆる手上げ)を挙げています。令和8年の調査では『自ら記載または記録を希望した者』を対象区分としている市町村が67.8%ありました。窓口で事情を伝えて相談してみてください。
うちの自治体のサイトに個別避難計画のページが見当たりません
ページが用意されていないだけで、取組自体は行われていることがあります。令和8年4月1日現在の調査では、個別避難計画を1件も作成していない市町村は解消されたと報告されています。『避難行動要支援者名簿』で探すか、市区町村の防災担当課・福祉担当課に電話で問い合わせてみてください。介護保険や障害福祉のサービスを利用している場合は、担当のケアマネジャーや相談支援専門員に聞くのが早いことが多いです。
計画に書く避難支援者を、近所に頼むのが心苦しいです
避難支援等実施者は個人でなくてもよく、内閣府の資料では自治会や自主防災組織などの組織・団体を記載することも可能とされています。また、同意書の様式例には、支援は避難支援等実施者自身やその家族の安全が前提であり、支援が必ずなされることを保証するものではなく、関係者は法的な責任や義務を負うものではないと明記されています。過度な負担を求める制度ではないことを、依頼するときに一緒に伝えられると話しやすくなります。
名簿に登録すると、病名まで近所に知られてしまいますか
平常時に名簿情報や個別避難計画情報を避難支援等関係者へ提供する場合、市町村の条例に特別の定めがある場合を除き、本人(個別避難計画の場合は避難支援等実施者も)の同意が必要とされています。提供先の範囲は市町村が地域防災計画で定めており、民生委員、消防機関、都道府県警察、自主防災組織、社会福祉協議会などが多く挙げられています。何がどこまで共有されるかは自治体ごとに異なるため、同意する前に説明を求めてください。内閣府の様式例には、判断のために詳細な説明を求めるという選択肢も用意されています。
個別避難計画があれば、福祉避難所に直接避難できますか
計画で指定福祉避難所へ避難することになっている場合は、最寄りの一般の避難所等ではなく指定福祉避難所へ直接避難することとされています。ただし指定福祉避難所は、受入対象者を特定して公示できる制度が設けられており、どなたでも直接行ける場所とは限りません。移動により心身の状態の悪化を招く場合や特別な設備が必要な場合は、内閣府の取組指針が、個別避難計画の作成過程で事前に避難先と調整しておくことが適当だとしています。避難先の候補として、相談の場で具体的に確認してください。
計画はどれくらいの頻度で見直せばよいですか
公的に定められた一律の頻度はありませんが、内閣府の取組指針は、避難行動要支援者の心身の状況等は変化するため計画の更新を念頭に置くこと、作成後も実効性を確保する取組が継続的に必要であることを示しています。家庭では、年に1回、介護保険の更新時期や防災の日などに合わせて、連絡先・支援者・薬や医療機器・避難先の4点を確認する形が続けやすいでしょう。

まとめ|「順番を待つ」から「相談してみる」へ

個別避難計画は、行政が一方的に配ってくれる書類ではなく、本人と家族、福祉の専門職、地域の人が一緒に作るものです。作成の主体は市町村ですが、全国の作成率はまだ15.1%で、市町村は優先度の高い人から順に進めています。だからこそ、家族の側から「うちにはこういう事情があります」と伝えることに意味があります。

今日できることは、そんなに重くありません。親の住む市区町村名と「個別避難計画」で検索してみる。担当のケアマネジャーに次に会うとき、一言だけ聞いてみる。ハザードマップで実家の場所を見てみる。この3つのどれか1つで十分です。

そして、計画ができても「必ず助けが来る」ではないことも、家族で共有しておいてください。支援者もまた被災します。だから早めに動く、避難先を複数持っておく、避難しなくて済む条件を整える。制度と家庭の備えは、どちらかではなく両方です。紙が1枚できることより、その紙を作る過程で「誰が、どこへ、どうやって」を家族と本人が言葉にできることのほうが、当日に効いてきます。

出典・参考

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